Production MusicにおけるSub-Mixの重要性/作り方

Production MusicにおけるSub-Mixの重要性/作り方

 この記事では、Production MusicにおけるSub-Mixの役割と制作方法について動画を交えて解説します。

Sub-Mixとは

 Sub-Mixとは、Libraryに提出する楽曲のフルミックスを元に特定の楽器をミュートしたり、曲の長さを調整したヴァリエーションの事です。ほとんどのLibraryではフルミックスをアクセプトした後、5トラックかそれ以上のSub-Mixを作成して追加で提出する事を要求します。

 なぜSub-Mixが必要かというと、楽曲がプレイスメントされた時、曲の雰囲気やリズムの感じは良いけど、ちょっとメロディがイメージに合わないなとか、メロディは良いのだけど、ドラムがちょっと賑やか過ぎてシーンに合わないなとかクライアントの様々な要望に瞬時に応えられる様に、予め想定される需要に対してヴァリエーションを用意しておく為です。

 また、フルミックスがプレイスメントされた番組中の別のシーンで同じ雰囲気をキープしつつ、少し静かなバージョンを使いたい、またはセリフが多めのシーンで使うのでメロディ無しバージョンが使いたい等、作中の雰囲気に統一感をもたらすためにも活用されます。

 適切で効果的なSub-MixをLibraryに提供する事により、1つのプレイスメントから複数のプレイスメントを派生して獲得するチャンスがグッと広げる事が出来ます。

 作曲家にとって嬉しいのは、フルミックスでもSub-Mixでも1プレイスメントあたりの使用料は変わらないという事です。

 まずはビッグプレイスメントを獲得できる様な上質なフルミックスを全力で作成する事が大事ですが、楽曲使用者の需要に応える的確なSub-Mixを提出する事も同じくらい大切です。

 Production Music スタートアップガイド(有料)の中で少しだけふれましたが、大手メディアの番組での楽曲使用といえど、1プレイスメントあたりの使用料はそれほど大きくありません。Production Music成功の秘訣は、少額のプレイスメントを多数獲得し積み上げていく事です。

 安定してプレイスメントを獲得するためには沢山の楽曲をLibraryと契約する必要がありますが、的確なSub-Mixを提出しておくことも重要なポイントとなります。

 例えば、あるドラマで楽曲のフルミックスがプレイスメントされたとして、同じ番組の別のシーンでその曲のSub-Mixが5回プレイスメントされたとします。そしてそのドラマが人気になり海外10ヵ国で放送される事になったとしたら、、

 たった一曲のプレイスメントが50曲分のプレイスメントを作り出す事も十分に起こり得ます。

 付け加えると、私の獲得プレイスメントのうち、実に60%以上がSub-Mixによるものです。これでSub-Mixの重要性が分かって頂けたでしょうか?

Sub-Mixの種類

Sub-Mixには、大きく分けて2種類あります

マイナスMix

 一番シンプルなSub-Mixの作り方で、フルミックスから任意の楽器をミュートしてよりシンプルなバージョンを作成します。

定番の組み合わせは、

  • メロディ(リード)無しMix
  • コード楽器 and/orシンセパッド無しMix
  • ベースとドラムオンリーMix
  • ドラムオンリーMix
  • ドラム無しMix
  • Sparse Mix

 マイナスMixの作り方は簡単で、フルミックスの書き出し時に使わないトラックをミュートするだけです。

 メロディ無しMixは、曲の雰囲気を残したままセリフとの衝突を避ける用途での需要が多いため特に使用頻度が高いです。シンプルにメロディ楽器や早いパッセージ、高音域で動きの多い楽器などセリフと被ってしまう恐れのある音をミュートしていきます。

 実際にどの楽器をミュートするかは作曲家に委ねられるケースがほとんどですので、そのSub-Mixの用途をよく理解して適宜判断していきましょう。

コード楽器 and/orシンセパッド無しMixもよく使われます。主な用途はメロディラインとリズムは残したまま空虚な雰囲気を演出する目的で使われます。これも単純にミュートするだけでOKです。

同様に、他のミックスもトラックミュートの組み合わせによって作成出来ます。

 ドラムオンリーMixに関しては、パーカッションや効果音など、非音程楽器をすべて含めてドラムトラックとするのが一般的です。

 Sparse Mixはコード楽器 and/orシンセパッド無しMixと似ていますが、ハイハットやシェイカー細かく動くシーケンスフレーズなどリズムを刻む楽器をミュートして隙間の多いサウンドにします。

 マイナスMixの例をいくつか挙げましたが、これに限らずクライアントの需要を予測してさらなるヴァリエーションを作成する事が可能です。

注意するポイント

マイナスMixを作る上で気を付けるポイントは

 全てのトラックのスタートポイントとエンドポイントをフルミックスと同じにするという事です。

 曲によっては特定の楽器をミュートすると曲中に長い無音部分が生じる事があります。その部分をついカットしたくなりますが、曲の長さは提出したフルミックスと同じである必要があるので、あくまでフルミックスを書き出した時の設定のまま、不要なトラックをミュートして作成してください。

 多くのDAWでは、スタートタイムとエンドタイムを保存できるのでフルミックスを書き出すときに忘れずに名前を付けて保存しておきましょう。

カットアップMix

 次に紹介するのがカットアップミックスです。

これは曲を特定の長さでカットした短縮バージョンです。

よく使われるのは、

  • 60秒バージョン
  • 30秒バージョン
  • 15秒バージョン

です。

 主な用途は、ドラマのプロモーションやダイジェスト映像です。CM音楽として使われるケースでは15秒バージョンも重宝されます。

 マイナスMixの項目では、フルタイムとSub-Mixのスタートタイム、エンドタイムが同じである必要がある、と書きましたが。カットアップはこの限りではありません。曲長がぴったり任意の秒数である様に調整しましょう。

カットアップMixのエンディング

 多くの記事で、Production Musicの曲の終わり方のルールの重要性について書いてきました。

 カットアップMixであっても、このルールは適用されますので、曲を唐突に終わらせたりフェードアウトで終わらせる事はできません。

 必然的にフルミックスのエンディング部を活かしてそれぞれの長さに調整していく事になります。

 曲のテンポや構成によってはちょうど60秒、30秒、15秒にならない事も多いかもしれませんが、そこは工夫してなんとか調整します。

 多くの場合、エンディングの最後のコードのヒットに十分な余韻を残して減衰させているはずなので、その余韻の長さを調整して任意の曲長に合わせるのが定番の手法です。

 曲中のあちこちからパーツを持ってきて繋ぎ合わせるやり方もありますが、自然に繋げるのが難しいのと、Libraryによってはフルミックスそのものに手を加えない様に指定するケースもあるのであまりお勧めはしません。

 ちなみに最近は、カットアップMixは提出不要としているLibraryが割と多いのも付け加えておきます。

マイナスMix+カットアップMix

上記で解説した、マイナスMixとカットアップMixを合わせて、

  • 60秒メロディ無しMix
  • 30秒ドラム無しMix
  • 15秒Sparse Mix

など、様々なバリエーションが作成可能です。

 カットアップMix提出可でSub-Mixの数に制限の無いLibraryだったら色々と試行錯誤して作ってみても良いでしょう。

 1個のフルミックスあたり20個も30個もSub-Mixを提出するというのはあまり現実的では無いので、特に需要のありそうなものを予想して5〜8個くらいに厳選して送るのが一般的です。

「動画で実例紹介」Sub-Mixの作成方法

それでは実際にどの様にSub-Mixを作成するのか、動画を交えて解説していきます。

今回、使用する楽曲は私のYouTubeチャンネルに著作権フリー楽曲として公開されている ”Mirror of My Heart”という曲です。

そしてこちら↓↓がSub-Mixを作成する様子を収録した動画になります。ちなみに今回は、マイナスMixのみ作成しました。

フルミックス

0:00〜2:23がフルミックスです。画面上、青く囲まれている部分が書き出し範囲です。この範囲を全てのSub-Mixに共通で適用するので、フルミックス作成時に必ず保存しておきましょう。フルミックスに関してはそのまま書き出すだけです。

メロディ無しMix

2:24〜4:57がメロディ無しMixの作成です。

 Voice, Pluck, Synth Lead,Stringsといった高音域で細かいラインを鳴らす楽器をミュートして書き出します。

 厳密に言えばピアノにもメロディっぽいラインが含まれていますが、中域であまり目立たない上、コード感を出す役割の方が大きいのでここでは残しました。

Sparse Mix

 4:58〜7:40がSparse Mixです。これはメロディ楽器は残しつつコード感を出して空間を埋めているPad系の楽器をミュートしました。

ドラム&ベースオンリーMix

 次は7:41〜10:08。これはドラム&ベースオンリーMixです。この曲では明確なベースパートは使っていないのでシンセパッドのなかで低音をカバーしている物を残しました。

ドラムオンリーMix

10:10〜12:35はドラムオンリーMixです。シンプルにドラムとパーカッションのみを残して書き出しをするだけです。

 しかし、一点だけ注意が必要です。それはループ素材の取り扱いです。多くのロイヤリティフリーのループ素材は自由に曲作りに使って良い事になっていますが、多くのサービスでダウンロードした素材を無加工で音楽作品としての再配布を禁止しています。

 ドラムオンリーMixではダウンロードしたループドラムを1曲通して鳴らす事もあると思いますが、Sub-Mix作成では元素材と同じにならない様に、他の楽器を足したり処理をする必要があります。

ドラム無しMix

 最後は、12:46〜15:05 ドラム無しMixです。シンプルにドラムのトラックをミュートします。一緒にパーカッションなど非音程楽器も抜いておきます。

 以上になります。

 曲作りのエキサイティングさと比べて、Sub-Mix制作は地味な作業で面倒くさいですが、プレイスメント効率に占める割合は非常に大きいので、しっかり研究してより需要の高い、クライアントにとって使い勝手の良いSub-Mixを提出する様にしましょう。