Production Musicバンドルはもう作りません!

Production Musicバンドルはもう作りません!

Production Musicバンドルとは

 私がProduction Music Libraryに楽曲を提出する時、同じ様なジャンル、用途の曲10〜12曲くらいを一纏めにして送っています。

私はこれをProduction Musicバンドルと呼んでいます。

この様な送り方をする理由は、Library側に取って都合が良いからです。そして周り回ってアクセプトされやすくなると考えています。

 私のブログやnoteの有料記事”Production Musicビジネススタートアップガイド”でも、これから参入する方にはこのやり方をお勧めしています。

 しかし私自身は、Production Music制作を始めて約9年になりますが、色々思う所があってこのバンドル作成を止めようという決断をしました。

この記事では、私がバンドル制作を止める理由、今後どの様に楽曲を提出していくのか等を解説していきたい思います。

バンドルの利点

バンドルは主にLibraryの利便性の為だと書きました。詳しい理由はこちらの記事にて解説しています。

 この記事内でも説明していますが、ジャンルや用途が同じ楽曲を10〜12曲のバンドルにして提出する事でLibraryの事務的な手間を大幅に減らす事ができます。Production Music Libraryはこのビジネスをやっていく上で最も大切なパートナーなので、相手の立場にたって行動する事で楽曲のアクセプト、プレイスメント、ひいては成功の確率を高めていく事ができます。

私がバンドル作成を止めようと思った理由

 バンドル単位で楽曲を提出する利点は先述の通りです。またウェブサイト上の提出ガイドラインなどではあまり明確に示されませんが、バンドル単位でしか楽曲提出を受け付けないLibraryもあります。

にもかかわらず、私がバンドル作成を止めるという決断をした理由を説明します。

いくつかありますが、最たる理由は….

私がとても飽きっぽい性格だからです😭

そんな理由かよ!?と思ったかもしれませんが、そんな理由です💦

もう少し解説しますね。

バンドル作成のプロセス

コンセプト決め

バンドルを作るとなったら最初にやることはコンセプト決めです。

 通常、BMG、Universal Production Music、Warner Production Musicといった超大手Libraryのウェブサイトにアクセスしてカタログ内の曲を聴いていきます。

特に重点的に聴くのが“New Release”の項目です。New Releaseの項目に載っている楽曲は”Libraryが現時点で需要があると考えている曲たち”です。

 Production MusicではPopsの世界に比べれば、需要の変化は緩やかですが、それでも求められているのは”今の音”です。80’s風とかレトロファンクとか古いジャンルにも一定の需要がありますが、それらも”現代の質感で作られたレトロサウンド”というのが前提になります。

 DAWや機材がすごい勢いで進化していくため、”今っぽい音”を知る為には最近、リリースされたばかりの作品を聴くのが一番です。

また同じ様な用途でも時代により使われるジャンルがどんどん変化していきます。

一例としてあげるならスポーツ番組のBGM。

 スポーツの種類によって年齢、人種、性別他、メインターゲットが変わるので一概には言いにくいですが、ひと昔まえのスポーツ番組のBGMでは大概、激しめのロック、ヘヴィメタルが使われていました。

 それがだんだん変化してシンフォニックなメタル、エレクトロ+ロックなどハイブリッドロック系が増えていき、今ではHip Hop、Trap、EDMなどが主流に移り変わっています。

 こういったトレンドの変化を掴むには大手のLibraryの最新のカタログを聴くのが一番です。

 中堅以下のLibraryは大手のLibraryの動向に追従する傾向があるので、大手の”New Release”を聴くのが、トレンドの流れを掴むのには最適です。

リファレンストラック

 コンセプトが定まったら、リファレンストラックを探していきます。通常、Libraryのカタログも数十曲程度のバンドルとして公開されているケースが多いので、コンセプト決めの時に聴いていた楽曲群をリファレンストラックとして使用していきます。

 音楽制作の様なクリエイティブな作業で、下敷きとしてリファレンストラックを使用することは賛否が分かれるかもしれませんが、私の場合はリファレンストラックはあくまで曲作りの出発点でしかなく、基本的な音色選び、曲調、Production Musicとしての機能を考慮した曲構成の参考として利用している感じです。

 メロディはもちろん、曲のアイデアをまるまるコピーする様なことはなく、制作が1割程度進んだ後は、自分の感覚で制作を進めていきリファレンストラックを聴き返す事はしません。

(ただし、トラッキングが終わった後、ミックスのリファレンスとして再度聴き直すのと、完成後にリファレンストラック、もといバンドルコンセプトから大きく逸脱していないかをチェックする為に聴くことはあります。)

 

 Production Music制作の様に、どの様な曲を作るかを作曲家に委ねられている場合、一番大変なのは、どのジャンルの曲を作るかを決める、”企画”の段階だと思っています。

 月に10曲、年間120曲以上作る為、日常的に曲作りのアイデアが枯渇した状態になりがちですが、リファレンスを使用する事であまり悩むことなく制作を続けられます。

曲作り

方向性が定まったら、Production Musicとしての機能を充分に満たせる様に注意しながらコンセプトに沿って曲を作っていきます。

10〜12曲制作

あとはバンドルが完成するまで、上記のプロセスを繰り返しながら10から12曲制作していきます。

バンドル作成の問題点(私の場合)

 この様にして作成されたバンドルはジャンル、用途、雰囲気ともに一貫性があり、単一の作曲家により制作されているためカタログ掲載時の管理がしやすく、Library側の利便性が高いものとなっているはずです。

バンドル制作を止めようとする理由に私の飽きっぽい性格を挙げましたが、これはつまりクオリティの継続が難しくなるという事です。

コンセプト、リファレンス設定の段階で考えるのは

  1. Libraryと契約してプレイスメントを獲得できる需要のあるジャンルか?
  2. 制作環境、機材、技術的に自分に制作可能か?
  3. Production Music制作として合理的な作業量と時間内で完成可能か?
  4. 楽しんで制作ができるか?

といった事です。

  1. 様々なジャンルの需要がありますが、やはりトレンドは存在します。またどんなに楽曲として優れていてもProduction Musicとしての機能を果たせない曲はやはりプレイスメントを獲得する事はできません。なのでそもそも需要があるか判断することは大事です。
  2. 私は基本的に自宅DTM環境で制作をしています。楽器はピアノ、ギター、ベース、サキソフォン、ドラムなどはある程度演奏できますが、ギターを除いてほとんどの音色をソフトシンセ でシミュレートしてDAW内部で完結させます。中にはMIDIでのシミュレーションが難しい楽器もありますが、基本的にProduction Music制作で演奏家に外注したり、プロスタジオを利用したりする事はありません。
     
    予算の問題もありますが、それ以上に権利関係の煩雑さ、作業効率などが理由です。なのでリファレンストラックを選ぶ段階で自宅スタジオで表現可能なサウンドかどうかを検討します。
  3. 私のProduction Musicビジネスの基本戦略は “Quality and Quantity(質と量)”です。
    膨大な時間をかけて至高の1曲を作り、命運を賭ける様なやり方ではなく、ちゃんと契約とプレイスメントを獲得できるクオリティを維持した上で可能な限り多くの曲を制作してLibraryに送っていきます。

    大体、週に2〜3曲は完成させていくペースなので1曲にかけられる時間は自ずと限られていきます。その中で充分なクオリティを維持できるジャンルを選んでいきます。

    例えば、フルオーケストラやビッグバンドの様にアンサンブルを構成する楽器数が多いジャンルは工程数が多くなり、パート間の音量、定位、エクスプレッションなどもしっかりエディットしないと説得力がある音になりにくいので、どうしても時間がかかります。私の技術では限られた時間内でその領域まで持っていく事ができないので、この様なジャンルはあまり作りません。

    ジャンル自体はとても需要があり、各Libraryのカタログには高品質な楽曲が数多く登録されています。技術力に地震のある人や効率的な時短技を持っている人が挑戦するのはアリだと思います。

 上記の様なプロセスを経て、バンドルとして制作をしていく訳ですが、その過程では10曲くらい続けて同じジャンルの似通ったサウンドを作り続ける日々が待っています。当然、使用する楽器もある程度似通ってきますし、同じ作曲手法などを繰り返し使用する事になります。

 そういう作り方に全くストレスを感じない人も居るでしょうが、私の場合、このスタイルでの制作を7年ほど続けていくうちに曲作りが楽しくなくなり強い”マンネリ”を感じる様になってきました。

いわゆる “Writer’s Block”です。

 バンドルを作り始める段階で、ある程自分好みで得意なサウンドをリファレンスにするので、最初の2、3曲は楽しんで制作できます。その後、3曲くらいで飽き始め、アイデアも出にくくなってきます。

7曲目辺りになると完全にそのジャンルの曲を聴くのも嫌になってきて、何もアイデアが出なくなります。とはいえ、今までの経験と音楽理論などを駆使してなんとか曲の形に仕上げていきます。

ラスト2曲くらいになると完全に燃え尽きてDAWを開いても何も作る気が起きなくなります。そうなったら仕方がないので、数日、オフを取り一旦、気持ちをリセットしたのちラストスパートで曲を作りバンドルを仕上げていきます。

ここ数年はこれを繰り返しながら、なんとか契約曲を増やし続けています。

 この様な精神状態で制作をしていく弊害として、バンドルの6曲目辺りからクオリティが下がり始め、独創性も薄れ始めてきます。ただ、これは私自身の主観であり、自分で納得のいく曲が出来たからといってプレイスメント成績が良くなるとは限りません。逆もまた然りです。

 現状、詳しく確認はしていないので分かりませんが、バンドル制作序盤に作った曲が後半に作った曲より多くの成果を上げているという事実は無い気がします。

 明確に成果の差としては表れていないものの、バンドル制作の後半ではさっさとこのバンドルを仕上げて解放されたい一心で曲を作っています。この様な精神状態では質の高い作品ができる訳がありませんし、健康にも良くないと思い始めました。

 以前の記事や、Production Musicビジネスステップアップガイドにも書きましたが、Production Musicビジネスは短距離走ではなくマラソンの様なものです。途中で燃え尽きて曲を書く事をやめてしまうのが一番良く無いので、今後、長く制作を続けるために今はストレスを感じる制作の仕方を止める決断に至りました。

AI作曲の影響

私の飽きっぽさの他に、AI作曲技術の発展の影響もバンドル制作をやめる決断をした一因です。

 曲の雰囲気やテンポ感、ジャンルなどを入力すると一瞬でそれらしい曲をアウトプットしてくれるAI作曲の技術により多くのコンポーザーが仕事を失うのではという懸念は随分前から語られています。

 実際、ここ数年で実用レベルといえるほどのクオリティの曲をアウトプットできるAIが登場して既に映像音楽として使用されている例もある様です。

それを受けてコンポーザーが仕事を失うという事態には現状、至っていない様に思います。動画コンテンツの増加やインターネットテレビ、VRやAR、メタバースなど新たな需要が次々に生まれているおかげでMusic Licensing業界は毎年、規模を拡大し続けています。

 AI楽曲による代替はまずはRoyalty Free Musicの利用者を中心に広がっていくと考えています。TV&Filmを中心としたProduction Musicは経験豊富なLibraryスタッフによるキュレーションと権利関係のトラブルを避けられるのが最大の利点ですのでAIによる影響は今のところ感じられません。

とはいうものの、業界内で話題になる事も多く、技術も日進月歩で進化していくのでずっと対岸の火事ではいられないと思っています。Production Musicに本格的にAI楽曲が入ってきた時に、どの様なインパクトがあり、どこまでその流れに抗う事ができるかは正直、分かりません。

 しかし、もしそうなっても最後まで価値を持ち続けられる曲があるとしたら、それはAIでの表現が難しいと思われる揺らぎ、意外性、独創性、奇抜さといった”強い個性”や”人間らしさ”ではないでしょうか。

 ある特定の雰囲気を表現するだけの楽曲ならAIがデータを取り込む事で、あっさり似た様な曲を一瞬で大量に作成できてしまうので、Production Musicの機能を満たしながら、”尖った曲”を作っていくやり方にシフトしていった方が良いのではないかと、ここ数年考えています。

 Production Musicは Quality and Quantity だと書きましたが、今後は少しづつQuality and Uniquenessに重点を移して行くつもりです。

バンドルを早く仕上げたい一心で曲をやっつけるより、1曲ごとに個性を発揮して曲を作った方が、楽しいという面もあります。

バンドル制作をやめて2ヶ月。どうなった?

9月末に最後のバンドルを仕上げて、提出しました。その後、バンドル制作中止を決断しました。

最後に送ったバンドルに関しては既にアクセプトされ契約が終了しています。

その後も曲自体は作り続けて、11月の初めにはジャンルこそバラバラですが、バンドルの曲数に相当する10曲が完成し、いくつかのLibraryに提出しました。現在(2021年11月半ば)の所、契約は取れていません。

これはジャンルがバラバラの影響もあるかもしれませんが、送り先がお付き合いのない新規のLibraryであることも一因としてあると思います。以前にも書きましたが、新規Libraryと契約を取るのは非常にハードル高く、一旦お付き合いが始まってしまえば、割と立て続けに契約が取れる様になるのがProduction Music業界の常です。

なので、現時点で契約が取れていないことへの焦りはありません。

しかし、しばらく様子を見ても契約が取れない場合は、既に継続的なお付き合いのあるLibraryに曲を送り直してみるつもりです。もしバンドルでしか受け付けられないと言われた場合には考えを改めて再びバンドルを作成するかもしれません。多少、しんどくても曲がアクセプトされない方が問題なので。

これから始める or 契約曲数が少ない人は

 ここまで、バンドル形式で提出するデメリットについて書いてきましたが、Production Musicをこれから始める方既に始めているけど契約曲が少ない方にはバンドルを作成する事を強くお勧めします

 私の場合は、既に1000曲を超える契約曲があり、ある程度プレイスメントを取り続けてくれるため、安定した著作権使用料を毎四半期ごとに受け取る事ができます。作った曲がすぐに契約が取れずにペンディングになったとしても気長に待つ事ができます。

 また、いくつかのLibraryのスタッフとは7年くらいの付き合いで、たまに仕事以外でもオンラインで会話をするくらいの友人に近い関係を築けているので、個別に様々な相談が可能だったりもします。

 しかし、まだ契約曲数が少ない段階では1曲でも多くの曲をLibraryのカタログに送り込み、収益を安定させる事が最優先です。

基本的にLibrary側はバンドル形式での提出を望んでいると思いますので、安定した著作権使用料を受け取れる様になるまではバンドル形式で楽曲を提出し契約を重ねる事が成功への近道だと思います。