リジェクション/リテイクとの向き合い方

リジェクション/リテイクとの向き合い方

 ここまでProduction Musicビジネスで成功するための方法、心構えについて書いてきました。Libraryと契約を重ねていく上で避けて通れないのがリジェクションリテイクです。この記事ではその向き合い方について解説します。

リジェクション

 Production Musicに限らず、作曲家がこの世で最も嫌う言葉では無いでしょうか?

 作曲家にとって楽曲とは苦しみを伴って生み出した、いわば自分の子供、分身の様な存在です。それをLibraryにリジェクトされると、自分自身を否定された気分になり、酷く傷つくことでしょう。

 残念ながらProduction Musicビジネスでは、日常的にリジェクションと向き合うことになります。

 それは1000曲近い楽曲をLibraryと契約してきた私も一緒です。

 今でこそ継続的に取引するLibraryが複数あり、Composerとしての信用もある程度獲得できているのでアクセプト率も上がり、最終的にどこのLibraryとも契約出来ない曲はほとんど無くなりました。

 しかし始めた当初は受け入れられやすい曲の作り方Libraryごとの特徴、需要のリサーチも上手くいかず、たくさんのリジェクションを経験してきました。

 今でも新規のLibraryに曲を送る時は、リジェクトされる事の方が多いです。そのくらい最初にLibraryと契約するのは狭き門となっています。

Libraryからの返事が来ない。

どのくらいの期間待ったら良いのか?

 リジェクションはLibraryから明確に返事をもらってリジェクトされるケースと長期に渡ってレスポンスが無いケースがあります。

 直接返事をもらった場合は諦めて次に行くしかありませんが、返事が無い場合はどのくらい待ったら良いか判断に迷うかと思います。

 曲をアクセプトしてもらえる場合、通常1、2週間で返信をもらえる事が多いです。稀に2、3ヶ月後くらいに突然、返事が来るケースもありますが、ほとんどの場合、1ヶ月以内くらいが基準になります。

 私自身、新規のLibraryに送った場合は、1ヶ月待って返信が無ければ、契約の可能性は無いと思って諦めて別のLibraryに送ります。

 過去に契約済みで、ある程度関係性が築けているLibraryに送った場合、2週間待って返信が無ければ、「曲を送ったが聴いてもらえているか?」という確認のメールを送ります。

 そこからさらに2週間待っても返信が無い場合は、その後の取引を考え直す。もしくは返信が来て契約が済むまでは次のバンドルを送らない。

という自分ルールを決めています。

 Libraryの業務は非常に忙しく、新規楽曲の受け入れに手が回らないこともあります。なので今日、曲を送って数日以内に返事が来るとは思わない方が良いでしょう。

 一方で私の個人的な感想ですが、良いLibraryほどレスポンスが早く、作曲家側の疑問や質問にも迅速丁寧に答えてくれる傾向がある気がします。

 LibraryとComposerはビジネスパートナーです。こちらがLibrary側の立場をリスペクトすると共に、Library側が作曲家側をリスペクトする姿勢を見せてくれるかどうかも、取引を決める上で重要なポイントです。

 そうやって作曲家を大事にしてくれるLibraryは、おそらくクライアントに対しても誠実な対応をしているはずなので、ビジネスがうまくいく事は想像に難くないですよね。

リジェクションを回避する方法

 Production Music Libraryにおいてリジェクションは切り離せない問題です。似た様なストックオーディオビジネスとしてAudiojungleAudiostockの様なRoyalty Free Stock Audioサービスもありますが、それらと比べてもProduction Music Libraryのリジェクト率ははるかに高いと思います。

 上質なLibraryは、契約した楽曲全てを直接クライアントにピッチする事を目指しているので、例え楽曲のクオリティが高くとも、その時点での業界、もしくはLibraryのニーズに合わない楽曲は問答無用でリジェクトされます。

 つまり多くのRoyalty Free Stock Audioサービスの様に、ある程度の水準をクリアした楽曲を需要に関わらず、とりあえず契約してしまうような事はしないのです。

 それだけにProduction Music Libraryと契約する事は狭き門になっていますが、契約できた曲に関しては上質なプレイスメントと楽曲が使用される限り、長期に渡り、繰り返し使用料を受け取る事が期待できます。

 絶対にリジェクトされない方法というのはありえないけど、少しでもアクセプト率を上げていくにはどうしたら良いか考えてみましょう。

  1. 提出ガイドラインを遵守する
  2. 事前にLibraryの需要をリサーチする
  3. ある程度まとまった曲数をバンドルとして送る
  4. 独自性のある楽曲を制作する
  5. 返信を早くする、期日を守る等、基本的なビジネスマナーを徹底する

1.ガイドラインを遵守

 各LibraryのWebサイトの多くにはSubmissionページがあり、曲の送り方に関する具体的なガイドラインを明示しています。

 私は、たまにProduction Music Libraryのスタッフと話をする機会があるのですが、リジェクションを決める1番の理由を尋ねると、みなさん口を揃えて言うのが、ガイドラインを守っていないSubmissionです。

 実際に、全Submissionのうち3割以上がガイドラインを守っていないと言っていた人もいました。

 ガイドラインを守らないSubmissionに対して、どの様に対処するか聞いたところ、楽曲を聴かずにそのままメールをゴミ箱に入れるという人がほとんどでした。

 その理由は、膨大な数のデモ音源を日々受け取る中で、違反を個別に指摘して修正を依頼する時間的余裕がない事。

 曲を受け取ったらそれで終わりではなく、細かな修正依頼や契約内容の確認、契約手続きなど、何度もやりとりをする必要があるため、最初の段階でガイドラインすら守れない人は返信が遅かったり、途中で音信不通になったり、秘密保持の約束を守れなかったり、その後のやりとりがスムーズに進められない人が圧倒的に多く非常にリスクが高いのだそうです。

 もちろんうっかりミスをしてしまう事もありますが、Libraryにとって新しい作曲家と契約するというのは非常にコストのかかる事であるため、ガイドラインを守れるかどうかは、一つの基準になるでしょう。

2.事前の需要リサーチ

 Production Musicでは思いつく限りすべてのジャンルの楽曲に需要があると言えます、しかしLibrary毎に持っているクライアントもプレイスメントされやすいジャンルも違い、それぞに特徴があります。

 例えばド派手なシネマティック系楽曲を揃え、そういうプレイスメントばかり獲得しているLibraryに、流行りのTop40っぽい楽曲のニーズは無いでしょう。

 一方、あなたがシネマティック系楽曲を得意としていても、Libraryのカタログにそういう楽曲が既に充実していたら同じ様な楽曲を送ってもLibrary内の激しい競争に晒される事になります。

 クオリティで圧倒できれば良いですが、それは容易ではありません。

 ではどうするかと言うと、カタログの中にある””を探す事です。

 シネマティック系の楽曲と云っても様々なタイプがありますよね。王道的なオーケストラ楽曲もあれば、シンセとのハイブリッドな現代的なサウンド、民族音楽っぽい節回しを強調した楽曲など。

 自分の得意なジャンルに強いLibraryを見つけたら、カタログ内の楽曲を色々、聴いてみて自分が入り込める”スキ”を見つけましょう。

 オーケストラ系の楽曲は沢山あるけど、民族音楽的な要素を含んだ曲は少ないなとか、シンセとのハイブリッドの曲はあるけど、この感じなら自分の方が高いクオリティの曲を供給できるなといった感じです。

Production Music Libraryの探し方に関してはこちら↓の記事で詳しく説明しています。

 noteで有料公開しているProduction Musicビジネススタートアップガイドをご購入頂いた方には、90社を超えるProduction Music Libraryを掲載したリストを特典として差し上げていますが、それを見て片っ端から曲を送るのではなく、Libraryの特徴と需要をリサーチして、自分の制作スタイルと相性の良いLibraryを選定して送る事で無駄な手間を省きアクセプト率を高める事ができるはずです。

3.まとまった曲数をバンドルとして送る

 このブログではLibraryに楽曲を送る時、同じジャンルや想定用途の楽曲を10〜12曲くらいをまとめて送る事を強く推奨しています。その理由はこちら↓の記事で詳しく解説しています。

4.独自性のある楽曲を作る

 Libraryのリサーチとも深く関係しますが、Production Musicビジネスでは世界中の作曲家がライバルになります。

 基本的に自分の得意なジャンルを中心に作っていくのが望ましいですが、オーケストラ系, Pop/Rock系, Hip-Hop系等、人気ジャンルでは需要は多いものの、競争相手も多くなります。

 その中で頭ひとつ抜けて契約、プレイスメントを獲得するためには、自分にしか無い個性を持つ事も重要になります。音使い、サウンドメイク、どの様な要素でも構わないので一聴してあなただと分かる個性をもっている事は強い武器になります。

 ただし、アーティストの作品とは違うのでプレイスメントを獲得しやすいようなジャンルや曲の構成の中でという制約はついて回ります。これに関しては最初はなかなか難しいので、プレイスメントの実績を積み上げていく中で時間をかけて構築していくと良いでしょう。

制作の具体的なコツや最低限守るべきルールなどをこちら↓の記事で紹介しています。

5.ビジネスマナーの徹底

 ガイドライン遵守の項でも触れましたが、Libraryにとって新規の作曲家と契約するのは、様々な確認事項や契約上の手続きがあり既に取引のある作曲家との契約よりもコストが高くなります。

 契約までに、リテイクやSub-mixの制作依頼などで作曲家と何度もメールのやりとりをする事になります。そこでレスポンスが遅かったり、ディレクションに真摯に対応してもらえないと、Library側としてもその後の契約に消極的にならざるを得ないでしょう。

 またLibraryと作曲家は対等なビジネスパートナーであるべきなので、互いの立場を尊重して相手のニーズを満たしてあげる必要があります。それを理解せずに”お客様”の様な態度で接すれば、自らチャンスを捨てている様なものです。適切で明快な言葉遣いや気遣いを忘れない様にしましょう。

 ただし、英語でのビジネスコミュニケーションを過度に不安に感じる必要はありません。フォーマルな言い回しなどにこだわる必要はありませんので、フランクに誤解を招かない言い方で、シンプルに意図が伝われば大丈夫です。 

リジェクションに対する向き合い方 

Photo by Allan Mas from Pexels

 リジェクションが好きな作曲家はいません。強がっていてもみんな少なからず嫌な気分になったり腹を立てたりするはずです。それは仕方がない事ですが、大事なのはそこからどう振舞うかです。アメリカの作曲家の方々とリジェクションにどう対処するか話すとみんな口を揃えて言う言葉があります。

Don’t burn the bridge by yourself!(自ら橋を燃やすな)

 アメリカ国内だけでも沢山のProduction Music Libraryがありますが、人材や情報の行き来が活発にあり、お互いに強い結びつきがあります。そういう意味でProduction Musicはとても狭い業界であると言えます。

 悪評はあっという間に広まります。リジェクションに腹を立てて、理由を問い詰めたり横柄な態度をとる事は、まさに成功への橋を自ら燃やしている事に他なりません。

 リジェクションの理由は楽曲のクオリティとは限りません。業界の需要、Libraryの需要、タイミング、単に担当者の好みなど様々です。リジェクションを個人的な音楽の才能に対する否定と捉えずに、一定期間待っても契約出来ない曲は、切り替えて別のLibraryに送ってみましょう。

リテイク

 リテイクも提出した楽曲がそのままでは受け入れてもらえない、という意味では作曲家にとってネガティブなイベントと言えますが、リジェクションとは趣が違います。

 クライアントワークをやっている方にとっては、リテイクはひたすらに面倒臭いだけかもしれませんが、

Libraryと契約≠報酬発生

であるProduction Musicに於いては、リテイクはむしろその先の、プレイスメントの確率を高めてくれるありがたいものだったりします。

 送られてきた楽曲がLibraryが求めているものと違った時、Library側には2つの選択肢があります。

 ひとつはそのままリジェクト。そして大量に送られてくる別の曲からよりフィットするものを選ぶ。これが最も簡単で手間がかからない方法。実際に一番多いパターンだと思います。

 もうひとつは作曲家に連絡を取り、参考音源を用意してディレクションして修正依頼をする事。

 継続的なやりとりを求められるし、望んだ結果が得られる保証もない。場合によっては作曲家が不快感を示しトラブルになるかもしれない。とても手間がかかるプロセスです。

 しかしながら、ちゃんとクオリティコントロールをしているLibraryでは手間を惜しまずリテイクの依頼を出します。

 作曲家にとってもすんなりアクセプトされる方が良いに決まっていますが、リテイク依頼には意外なメリットも沢山あります。

 まずリテイク依頼を受けると言う事は、その曲がかなり良い線を行っているという証でもあるので、ちゃんと対応すれば、その後アクセプトされる可能性は高いです。

 そしてLibraryが手間をおしてリテイクを依頼するという事は、なんとか手間をかけてでも、その楽曲をカタログに入れたいという事なので、その楽曲の様なサウンドは市場やLibraryで需要がかなり高まっている可能性が高いのです。

 通常、Production Music Composerが業界の需要の変動をリアルタイムで知る事は出来ませんが、リテイク依頼を通じてその一旦を感じる事が出来ます。

リテイク依頼からの成功事例

 以前、私は15曲入りのバンドルを作成してLibraryに送りました。そのバンドルは他でリジェクトされた曲をなんとか処理したいという思惑もありジャンルにかなりバラツキのある、あまり優秀とは言えない寄せ集めバンドルでした。

 案の定、半数がリジェクトされてしまいます。そして残りの曲のうち4曲は即時アクセプト、3曲はリテイクの依頼を受けて対応する事になりました。

 そこで私は、その3曲が同じ様なカントリーロック調のギターを中心にした楽曲である事に気付きました。リテイク依頼に関してはディレクションに忠実に対応して、すぐに作り直して送りましたが、曲を送る時にさりげなく

「もしかしてこういう感じの曲って今、需要が高まっていますか?もしそうなら、私のすごく得意なジャンルなので喜んで制作しますよ!」

と打診してみました。

するとLibraryから

「いやーそうなんだよ。〇〇っていう番組が大ヒットして似た感じの楽曲を必要としてるプロダクションが沢山あるんだ。あと20曲くらいこの系統で作れる?」

と、話がトントン拍子に進み、私はすぐに制作を開始しました。

 そしてこの時作ったバンドルが、そのLibraryと契約した中で最多のプレイスメントを獲得しています。

勝因は

  • リテイクから需要の高まりを予測した事
  • リテイクで要求にきっちり答えて信頼を勝ち取った事
  • さらなる楽曲提供をこちらから提案した事
  • すぐに制作に取り掛かりトレンドがホットなうちに迅速に提供した事

です。

 ちなみに私がこのジャンルが得意というのは

50%真実で50%はハッタリです。

 そしてこの時、別のバンドルを制作中でしたが、それは後回しにしてこちらに100%コミットして通常の倍ぐらいのスピードで仕上げました。Production Musicをフルタイムでやる利点は自分の都合で制作プランをコントロールできる事にあります。

まとめ

Photo by RUN 4 FFWPU from Pexels

 今回はProduction Musicビジネスとは切っても切り離せないリジェクションとリテイクへの向き合い方について書きました。どんなに優秀な作曲家でも一回もリジェクションを経験せずに成功することは不可能です。一見、ネガティブな出来事に思える事でも、実は大事なヒントが隠れている事もあります。

 Production Musicビジネスをやると言うことは短距離走ではなくマラソンの様なものです。短期的な結果に一喜一憂するのではなく、長期的な視点に立って楽曲のクオリティアップをはかり、契約を重ねていくことをお勧めします。