Production Musicの作り方

Production Musicの作り方

 この記事では、Production Music Libraryと契約し、より多くのプレイスメントを獲得するためのテクニックとルールを実際の制作例と共に解説します。

Production Music Libraryって何?っていう人は先にこちら↓↓↓の記事を読んでください。

役割

 普通のPops作品とProduction Musicと一番の違いはその役割にあります。Popsがアーティストの世界観を表現するものである一方、Production Musicは映像作品の感情表現をサポート、強調するのが目的です

 Popsの主役はアーティストなので、どの様な表現も自由です。しかしProduction Musicの主役は映像です。音楽は映像が求める音を過不足なく提供する事を求められます。

 また映像制作の現場で選曲に割ける時間は、非常に限られているので選曲を担当するMusic Supervisorが検索しやすく、プロジェクト中で使いやすい仕様に整えておく必要があります。

 ここからProduction Musicに適した楽曲の作り方について解説していきます。

必須条件

 上述の通り、Production Musicの役割を果たす為に、曲の作り方にいくつかの制約があります。まずはこれを欠いたらProduction Musicとして成立しないという必須条件を挙げていきます。

  • はっきりしたエンディングで終わる
  • 明確な感情表現
  • 一貫したスタイル、リズム、フィール
  • 時間経過にしたがって曲が適切に展開
  • セリフの邪魔をしない。
  • 現代的な音色
  • 市販の音楽作品と遜色ないクオリティ

エンディング

 普通のポップスであれば、

  • フェードアウトでゆっくり減衰していく
  • クロスフェードしながら次の曲に自然に繋げる
  • 突然、なんの脈絡もなく終わる
  • 浮遊感のあるコードでなんとなく終わる

等、思いつく限り面白いエンディングの手法を考える事ができます。

しかしProduction Musicのエンディングにはルールがあります。

  • エンディングに向かって少しづつ盛り上がっていき、明確なヒットを伴って最後のコードに解決して終わる
  • 最後のコードは終止感(着地感?通常トニックコード)があり余韻を十分に伸ばして自然に減衰していく

実際の音で良い例と悪い例を紹介します。

■良い例

明確なヒットを伴ってトニックコードに解決

 エンディングに向かって盛り上がり、トニックコードの明確なヒットで解決して終わる。余韻も十分にあり、自然に減衰して消える。

 Libraryによっては、楽曲提出ガイドラインでエンディングの方法を明示していますが、ほとんどがこの方法が指定されています。他の部分では例外が多くありますが、エンディングの方法だけは明確なルールと思って間違い無いと思います。

 このエンディングが必要な理由はTV番組などでシーンの切り替え時に音楽を使用する為です。

特にドキュメンタリーやドラマ系のシーン転換時のBGMの使い方として、

  1. 楽曲のエンディング前の数秒を使って盛り上げる
  2. 終止のコードの余韻が減衰していく
  3. 次のシーンへ移行する。

と言う流れが非常によく使われます。

 だんだんフェードアウトしていく終わり方や、何の脈絡も無く終わる曲と言うのは、こういった用途では使えませんし、終止感がないコードでは次のシーンに移れません。

■悪い例

 ゆっくりフェードアウトして明確な終了ポイントが分からない。これはProduction Musicでは絶対にNGです。

フェードアウト

■場合によってはアリだけど、多分、私はやらない例

同主調のトニックコードに解決

 ■同主調への解決はPops等では普通に使われる手法ですが、エンディングに向かって盛り上げて来た雰囲気と違う雰囲気で解決するのはProduction Musicではあまり歓迎されません。

サブドミナントに解決

 ■サブドミナントに解決するサウンドも普通によく耳にするアプローチですが、Production Musicとしては終止感に欠けるのであまり良くありません。

突然、カットアウト

 ■突然、なんの脈絡もなく曲がカットアウトされるというのも前衛的なアーティストが好んで使う手法ですが、やはりProduction Music向きではありません

 上記の3つの手法ですが、私がこれをフルミックスとして提出する事はまずありません。ただ、Libraryによっては、思いつく限り多くのオルタネイトミックスを一緒に提出してほしいとリクエストする所もあり、そういう場合にはSub-Mixとして作成する事はあるかもしれません。

 曲の最後のヒットを含んだ数秒間を抜き出した部分の事を、”Stinger”と呼びます。多くのLibraryがフルバージョンの他に、Stingerバージョンの提出を要求することからも、エンディングの重要性がわかると思います。

2、3個のキーワードで表せる感情表現

 これはProduction Musicの役割を考えれば、当然です。Music SupervisorがLibraryのカタログから曲を検索する時には、キーワードを使って用途にマッチする曲調を絞り込んで聴いていきます。

例えば

雰囲気を表す形容詞Dark, Mysterious, Happy, Sad, Romantic,Tense
楽曲ジャンルRock, Hip-Hop,Orchestral, Funk
使用楽器Guitar, Latin Percussion, Strings, Trumpet
年代を表す言葉2020’s, 80’s, old, Modern, Future,  
地域や文化圏を表す言葉Asia, Mid-East, Africa, Japan

等のキーワードを組み合わせて目的の曲にアプローチしていきます。

 当然、Library側も作曲家から預かった曲をカテゴライズしてそれぞれの曲調に当てはまるキーワードをメタデータとして書き込んでいきます。

 作曲家としては、2,3個のキーワードで検索された時に納得感のある、感情表現が明確な曲を作る必要があります。

スタイル、リズム、調性、フィールの一貫性

Music Supervisorは特定の雰囲気に即したキーワードで検索をするので、曲中に様々な感情表現がいくつも出てくる曲、頻繁にリズムパターンや雰囲気が変わる曲は好まれません。

 たとえば、イントロはハッピーに、Verse(Aメロ)に入ったら悲しい感じ、といった展開はNGです。曲頭からエンディングに至るまで感情表現とスタイル、リズムが一貫している事が大事です。

時間経過にしたがって曲が適切に展開

 一貫性が大事だと書きましたが、ループの様にずっと変化しないで繰り返す曲を作れ、という意味ではありません。映像は時間経過にしたがって変化していきますから、それに合わせて曲も展開していく必要があります。

 楽曲が使用される際、丸ごと一曲使用されるケースは稀で、通常、数秒から数十秒程度のみを切り取って使用されるのが普通です。

 例えば90秒の曲にAセクションが2回出てくる場合、まったく同じパートをコピペするのでは無く、ほんの少しヴァリエーションをつけておく事で、Music Superviosrに選択の余地を与える事ができます。

 テンポやジャンルによっても違いますが、4小節から8小節毎に曲にわずかな変化を加えて展開していくのがプレイスメント獲得の為に効果的です。

 また、シーンの展開を演出する為、セクションの変わり目にはドラムフィルや、シンバルのロールなどで明確なトランジションをしっかり作る事が望ましいです。

セリフの邪魔をしない

 Production Musicは役者やナレーターのセリフの背景として使用される事が多いので、セリフの邪魔をしない配慮も必要になってきます。

具体的には、

  • フレージングやリズムを必要以上に細かくしない
  • 無駄な音を入れずシンプルな構成にする
  • セリフの入る音域(1khz〜5khz)を控えめにする
  • セリフにカブりそうな音域をPanで左右に振る

 最初の二つは分かりやすいと思います。アレンジの段階でゴチャゴチャしないように注意し必要なフレーズ、音色だけを厳選して入れていく様にしましょう。

 3つ目に関して、具体的には中域から高域です。楽器的にはピアノの右手やギターなど、いわゆるメロディの音域です。

 まったく入れてはいけない訳ではありませんが、常に上にセリフが乗る事を想定して作る必要があります。定位に関しては、通常セリフは真ん中に定位されるのでギター、パーカッションなど、中高域を左右に振り分けると良いでしょう。

現代的な音色、音圧・市販の音楽作品と同等のクオリティ

 映像音楽といえばハリウッド映画の豪華なオーケストラサウンドをイメージする人が多いかもしれません。しかし、日常的に放送されているテレビ番組には、毎回フルオーケストラをレコーディングする予算も時間的余裕もありません。

 そこで登場するのがProduction Music Libraryです。予め権利関係をクリアにした曲をカタログにして番組制作会社にライセンスする訳です。この仕組み自体は古くからあり、最初のProduction Music Libraryが登場したのは1927年のDe Wolfe Musicだそうです。こちらは現在も有力なLibraryの一つです。

 30年前くらいまでは、テレビのBGMといえば、チージー(安っぽいというスラング)な曲が普通に放送されていました。しかし、近年ではDTMの発達でハイクオリティなサウンドをあまりコストをかけずに制作できる様になり、カタログのクオリティは飛躍的に上がっており、市販の音楽作品と比べても遜色の無い曲が沢山使われています。

 現代のProduction Musicビジネスで成功する為には、モダンな音色、市販の音楽作品と同等のクオリティが必須となっています。

 ただし高価な機材やスタジオなどに多額の投資をする必要はありません。現在では、数万円程度のシンセやプラグインでも十分に良い音を得られるので、多くのProduction Musicが作曲家の自宅スタジオでDTMで制作されています。

TV番組で使用されやすい曲の作り方

 ここからは、ルールという程では無いが私の経験上、より多くのプレイスメントを獲得できた曲の作り方のコツを紹介していきます。

歌もの or インスト?

 まず最初に歌モノを作るのかインストを作るのかを決める必要があります。意外かもしれませんが、Production Musicでは歌モノの需要もあります。ただ全体の比率は

歌モノ1:インスト9

ぐらいなので、インストの方が圧倒的に使用される可能性が高いです。

 しかしながら歌モノを作るメリットもあります。楽曲のプレイスメントには大きく分けて2種類あります。

フォアグラウンドバックグラウンドです。

 フォアグラウンドはセリフの無いシーンで音楽のみが流される状態のプレイスメントです。バックグラウンドに比べて使用料がかなり高く設定されています。

番組中で歌モノが使用されるのは

  • テーマソング
  • ミュージシャンの歌唱シーン
  • セリフの無い回想シーン

等、音楽単体で使われる事がほとんどです。

 特にテーマソングのライセンス料は非常に高額です。そしてシリーズ物の番組だとエピソード毎に必ずプレイスメントされ、繰り返し使用料を得る事ができます。

 さらにテーマソングは番組のイメージそのものなのでSub-mixが番組中のBGMとして再度、利用される事が多く、さらに多くのプレイスメントが期待できます。

 バックグラウンドは一般的なBGMとしてセリフのあるシーンの背景音楽として使用されるプレイスメントです。楽曲使用料は少額ですが、圧倒的に数が多いので、より多くのプレイスメント獲得のチャンスがあります。

どちらをやるべき?

 一概には言えませんが、楽曲使用の絶対数が少ない分、歌モノを中心に制作していく方がギャンブル性が高くなるし、一般的には歌モノの方が制作に時間がかかると思います。

 又、あなたが素晴らしいシンガーで十分な録音環境を持っていない限り、シンガーを外注してスタジオを借りなければならないので、一曲あたりの制作コストが高くなりがちです。

 そしてプレイスメントが現時点での、”流行っている曲調”に偏りがちなので、トレンドの影響を受けやすく曲の”賞味期限”が短いという問題もあります。

 一方、インストであればDTM環境で一人で完結できるので低コストで制作が可能です。各用途ごとに定番の曲調や楽器の組み合わせがあり、そういったリサーチが出来ていれば、長期間に渡って曲が使用されるチャンスがあります。

 反面、一曲あたりの楽曲使用料が安いので、まとまった使用料を得る為には大量に曲を作る必要があります。

 私自身は、インストのみを制作して生活に十分な収入を得ています。どうしても歌モノで勝負したい、とかでなければインストを中心に制作する方が、長期的に積み上げていけるので結果的に安定した収入を得られる様になると思います。

 Libraryによっては歌モノを専門に扱っているところもあり、歌モノの売り込みに強い営業力を持っています。そういったLibraryを探し、契約できればチャンスも広がるので、歌モノを中心に制作したい人は挑戦してみても良いかもしれません。

 ただし、基本的に英語詞で発音もネイティブ並である必要があります。
(近年、グローバル化やNetflixの隆盛の影響でProduction Musicでも英語以外の歌モノの需要が高まって来ている様です。これについては別記事にて解説します。)

曲の長さ

 1分30秒以上3分以内が良いでしょう。Libraryによっては具体的な指示がある事もあります。イントロ、導入、展開、エンディングと一通り作ると、短くても1分30秒くらいにはなります。

 3分以上の曲を作ってもおそらく、全部は聴いてもらえないのと、実際にプレイスメントされるのは数十秒程度なので、あまり長い曲を作る意味はありません。

 Production Musicビジネスはある意味”Number’s Game”(数の勝負)な側面があるので、様々なテイストの曲を数多くカタログに登録している方がチャンスが高まります。5分以上で繰り返しの多い曲を作るなら2分30秒の曲を2曲作る方が合理的です。

 ただし数の勝負ではありますが、”質より量”では無く、”質と量”の勝負なのでクオリティを保てる様にしましょう。

リスナーの興味を引きつけるイントロ

 Music Supervisorが曲を選ぶ時、カタログから特定のキーワードで曲を絞り込んだ後、数十曲から時には数百曲並べて聴いていきます。一曲あたり聴く時間は2、3秒だそうです。その中で、興味を引かれた数曲をじっくり聴いていき1曲に絞って行きます。

その数秒でMusic Supervisorが判断しているのは以下の4つです。

  1. ミックス、音圧、楽曲のクオリティが十分か
  2. ジャンル、使用楽器は目的と一致しているか
  3. テンポ感が目的と一致しているか
  4. 感情表現が目的と一致しているか

 1.はとりあえず、ブロードキャストクオリティに達していて、問題なく放送で使えるかどうかのチェックですね。Libraryと契約済の曲なので一定のクオリティは担保されているハズですが、Music Supervisorの方でもチェックします。

2.〜4.は使用目的に合致しているかのチェックです。キーワードで検索された時に端的にそれを表現してるのが望ましいです。

 上記の4つを一瞬で判断されるので、作曲家としてはその限られた時間で楽曲のスタイル、テンポ感、感情表現までを伝る必要があります。

 なので再生ボタンをクリックしたら、直ちに曲のテイストを理解できる様な単刀直入なイントロを作る必要があります。同時にMusic Supervisorの関心を引く様な魅力的な要素があるとさらに良いです。

 Popsでは、フェードインで数十秒かけて盛り上がるイントロや冒頭に環境音や効果音を入れる演出もありますが、Production Musicではオススメできません。曲が始まったらすぐに全体の雰囲気がわかるようにしましょう。

実例を挙げてみましょう

良い例

 再生ボタンを押した瞬間にドラムのフィルと共に曲に入ります。すぐにメインの楽器であるエレキギター、ベース、ドラムが入ってきてテンポが速く明るい感じのロックでハードロックである事が分かります。

 また、シンセのウワモノがある事によってレトロなロックでは無く、現代的なハイブリッド要素がある曲だと分かります。

 8小節毎にベル→シェイカーと新しい要素が加わり、ビルドアップする事で、リスナーの興味を留めると共に、Music Supervisorにプレイスメントの為のバリエーションを提供しています。

悪い例

 かなり極端に表現しましたが、ドラム、ベースが入って曲調が分かるまでに11秒もかかっています。また、ギターがフェードインするせいで、バンドインした瞬間のインパクトも半減しています。ベルが入るタイミングがシェイカーと被った為に少しづつビルドアップしていく演出もあまり機能しなくなっています。

 たとえばMusic Supervisorがスポーツ系の番組用にノリの良いロックを探していたとしたら、リズム隊が入る前に再生を止めて次の曲にスキップするでしょう。

[制作実演]

 それでは実際に曲を作りながら、Production Music制作のポイントをまとめて行きましょう。

 これから紹介する曲は私がLibraryに送る想定で作成した曲です。ここまで紹介したポイントをどの様に盛り込んだのか解説していきます。

お断り

 Production Musicには用途によって様々なフォーマットや制作方法があります。必ず、私と同じ方法を取らなければ契約できないわけではありません。また、完璧に同じやり方をしても、契約やプレイスメントを保証する事はできません。

 ここで紹介する手法は、あくまで私の経験に基づいた”私の考える合理的な手法”です。自身でLibraryと契約しプレイスメント獲得を経験する中で自分独自のの必勝パターンが見えてくるハズです。

コンセプトを決める

 まずはどんな曲を作り、どんな用途のプレイスメントを目指すか決定します。通常、このコンセプト決めにはLibraryのカタログからリファレンンスになるトラックを探したり、Briefと呼ばれる制作依頼書がLibraryから送られてきて、そのガイドラインに従って制作します。

今回の曲は

ジャンルDramatic Tension Music
テンポスローからミディアムBPM60〜90
雰囲気Dark,Mysterious,Dangerous, Urgent
主な使用楽器モダンなシンセとオーケストラ系のハイブリッド
想定される用途ミステリアスで緊張感の高いドラマのBGM(Lost, C.S.I, Prison Brake)

こんな感じに設定しました。

 私は曲を作る際にイメージ画像を探し、それを見ながら曲を作ったりします。作曲の取っ掛かりなので、あまり具体的な写真でなくて良いです。また、作っている途中で、イメージを離れてしまっても問題ありません。
今回はこちら↓↓↓を用意しました。

フルトラック

とりあえず、曲を聴いてください

 この曲はフリーダウンロード出来ます。ダウンロードリンクはクレジットとチャンネルへのリンク掲載のみで、著作権フリー楽曲として商用可能な曲を公開する私のYoutubeチャンネル 

”Syncman’s No Copyright Music”

の動画の概要欄にあります。

この機会にチャンネル登録をお願い致します。

チャンネル内のすべての楽曲は著作権フリーですが、そのまま音楽作品としての再配布は禁止です。

それでは詳しく見て行きましょう。

イントロ

 ・0:00〜0:15

 リバースシンバルのピックアップから曲が始まります。前項でフェードインは良くないと書きましたが、この場合1小節と短く、しかも曲の雰囲気をセットアップする役割も果たせているので問題ありません。

 ピックアップ後、即座に曲のメインのグルーヴとなるベースとパーカッションの4小節パターンが始まり1小節のブレイクの後、メインのメロディーセクションへ進みます。

 大事なポイントは冒頭15秒で曲の雰囲気を明確に提示している事です。Music Supervisorのキーワード検索の内容に合っていれば、少なくとも最初のメロディーパートの終わりくらいまでは聴いてもらえるはずです。

時間経過による展開

 この曲はイントロ4小節+ブレイク1小節の後は、Aセクション8小節、Bセクション8小節を交互に繰り返しながらビルドアップしていくシンプルな構成です。

 お気づきかもしれませんが、この曲にはコード進行がありません。最初から最後までEマイナーコード一発です。

 時々、C音やストリングスのF音が入る事で、モードの乗り換えを感じさせる所はありますが、基本的に1個のコードのみでビルドアップしたりドロップしたりする事で展開を付けています。

 8小節ごとに新しい楽器やフレーズが追加する事で、リスナーを飽きさせないと共にMusic Supervisorにより多くの選択肢を与えられる様に意識しています。

 BPMは85とやや遅めです。通常、このテンポで8小節だと間延びしてしまう事もありますが、ブレイクを入れてメリハリをつけているのと、リズミック変化するシンセの音色を使用しているので割と冗長にならずに聴けるはずです。

・1:26〜End

 ドロップ後のABセクションのリピートはベースにクセの強いシンセの音がレイヤーされている以外は1回目の繰り返しですが、ヴァリエーションとしては、このくらい些細な質感変化で十分です。もちろんもっと積極的に展開を作っていっても構いません。

トランジション

 8小節ごとの新しいセクションに入る直前1、2小節に様々に加工したリバース系の音がトランジションとして入っています。セクションの転換を強調すると共に、リスナーに次の展開を期待させる役割を持たせてあります。

・0:15 /・1:26

 ブレイクから戻る時も意外性のあるエフェクトをかけたリバース系の音色を使って面白みのある展開を作っています。

また、ブレイクやエンディング直前は特に盛り上げたいので、より派手な”Rise and Hit”の音源を使っています。

■使用した音源
Native Instruments-Rise and Hits

 シネマティックなトランジションを演出するRiser+Hit効果を、MIDIノート1音でトリガーできます。質感も良く、迫力抜群のプリセットが沢山用意されています。

 さらにテンポに合わせてRise部分の長さを1拍〜8小節まで自由に変えられるのもすごく便利なポイントです。

 音色パッチはRise部、Hit部に分かれていて、それぞれ4つの音色がレイヤーされています。音量や入ってくるタイミング、ディケイを個別に調整できます。また、EQ、Distortion、Comp,Convolution Reverb,Delayなどが内蔵されているのでこの音源単体でも、かなり自由に音を作り込む事が可能です。

 Production Musicではシーンの転換のためのビルドアップがとても大事な要素なので、私はこの音源を多用しています。ほとんどの曲で使っていると言っても過言ではありません。

 Rise and HitはNative Instruments-Komplete 13 ULTIMATEに収録されています。単体でもダウンロード購入できますが、Komplete 13 ULTIMATE収録の他の音源やエフェクトも素晴らしい物が揃っていて、それだけで十分に音楽制作が可能なレベルなので、費用対効果を考えれば、Komplete を導入するほうがお得だと思います。

エンディング

・2:07〜End

 前述のRise and Hitsでクレッシェンドを作り盛り上げつつ、曲中で一番分厚いアレンジになっています。最後のコードで明確なヒットと共にエンディングを迎えて、十分な余韻を保ちながら減衰して曲が終わります。

 このラスト数小節がもっとも多くプレイスメントされるのでエンディングの盛り上げ方、曲の終わり方には特に気合を入れて作っています。

総評

如何でしたか?

 自分自身としては、様々な要素を説明する為に音を足していった結果、最初のDark,Mysterious系の想定よりもアクション系に寄ってしまった感はありますが、Production Musicとしての必要条件を満たしつつ、面白みのある曲に仕上がったと思います。

・音質、ミックス、マスタリングについて
 割と音数が多く、セリフと被る音域の音も多用していますが、Panで左右に振り分けるなどしてバランスを取っています。

 音圧に関してはあまりマキシマイズしていないので、市販の音楽作品よりは小さく聴こえるかもしれません。ただ余計なピークなどはしっかり抑えて、Production Musicとしては十分な音圧を出せていると思います。

 あと、提出された曲をLibrary側でマスタリングする事もあるので、私の方であまり音量を突っ込んでしまうと、どうにもならなくなってしまうので抑えめに処理しています。

・曲のクオリティと制作ペースについて

 今回の曲を制作するにあたって気をつけた事は普段、Production Music Libraryに提出している曲を忠実に再現する事です。今回作った曲に関しては、仮にこのブログで公開していなければLibraryに送っていると考えてい頂いて構いません。

本当は実際に契約してプレイスメントを獲得している曲を公開できるのが一番良いのですが、それは契約上、出来ません。

私の曲を聴いて様々な感想をお持ちだと思います。

■正直、大した事ないな!と思った人

 既にあなたの楽曲制作力はProduction Musicビジネスをやるのに十分だと思われます。なぜなら、あなたが大した事ないと思った私の曲が契約、プレイスメントを取れているからです。

 とはいえ、Production Musicビジネスは”量と質”の勝負、そして成果が出るまで1年半以上かかる世界なので、その覚悟があるならすぐに曲を作り始め、カタログを構築しましょう。適切な楽曲フォーマットで良いLibraryと契約できれば、生活に十分な楽曲使用料が得られる様になるでしょう。

■凄すぎる!こんな曲作れない!と思った人

 そんな人がいるかどうか分かりませんが、DTM歴の浅い人はそう感じたかもしれません。今回は特に、アクション系の音色を多用したのでパッと聴いた感じすごく派手に聴こえて圧倒されたかもしれませんが、音楽的、技術的には大した事はしていません。今はチュートリアル動画などたくさんの情報が手に入るのでコツをつかめば、このクオリティの曲を作るのはそれほど難しくありません。

 そしてProduction Musicでは、派手な感じの曲以外にもギター、ピアノとパーカッションだけの様なシンプルな曲も大変需要があります。ご自分の得意なジャンルで腕を磨いて行けば大丈夫です。経験値を高めながら、Libraryに曲を送る準備を進めましょう。

●制作のペース

 この曲を作り始めてから、Final Mixを書き出すまで丸2日かかりました。1日の作業時間は8時間くらいです。実際は、並行して別の制作をしていたので、実質1日で完成させています。

 慣れていない人には、これはかなりのハイペースに思えるかもしれませんが、ループ音源を活用したり、自分なりのワークフローを確立すればできる様になります。

 私は通常、週5日作業をして2、3曲を完成、月に10〜12曲を制作。これをバンドルにして毎月、Libraryに売り込みます。その結果、年間120曲ぐらいを新たにLibraryと契約しています。現在の総契約数は1000曲程です。

 Libraryに送っても契約をリジェクト(拒否)される曲もあります。私は複数のLibraryと取引があり、リジェクトされた曲を集めて新たにバンドルを作り、別のLibraryに送る事で全く契約が取れない曲は、ここ数年はありません(最終手段として、一つだけ審査があまり厳しくないLibraryと取引しているのも理由です。)

リジェクトの理由はクオリティの問題だけでなく、業界トレンドやLibraryの方針等、様々なのでリジェクトされてもあまり気に病まず、他をあたってみるというスタンスが良いと思います。

Production Musicに専念すべき?

 このブログを読んでいるほとんどの方が現在、別の仕事をしながら、もしくは学生として忙しく生活している事かと思います。

 繰り返しになりますが、Production Musicビジネスは、作曲家が楽曲から収入を得て生活できる様になるポテンシャルがありますが、成果が出るまでに何百曲も契約をする必要があり、著作権使用料の分配を受け取るまでにタイムラグがある事から、成果が出るまでに最低でも1年半はかかります。

 またLibraryとの契約は、なんら収入の保証をする物ではなく、楽曲使用があって初めて分配を受け取る事ができます。

 なので、このブログを読んでProduction Musicへの参入を決意したとしても、今すぐ仕事や学校をやめて曲作りに専念する、というのはあまり良いアイデアだとは思えません。

 慣れるまではかなり大変でしょうが、まずは副業として、週2,3曲を目標に楽曲制作をしてLibraryとの契約を重ねていきましょう。これを1年くらい続けられれば、100曲程度の契約が取れているはずです。

 その頃には、最初の楽曲使用料の分配を受け取れるハズです。BMIの場合、楽曲使用から分配まで最短で9ヶ月かかるので、最初の分配の対象になるのは初期の数10曲程度になるでしょう。

 その段階では生活費を賄うほどの収益を得るのは不可能だと思いますが、自分の楽曲はProduction Musicビジネスでどのくらい稼げるのか、ある程度イメージできる様になるので、その時が来たらProduction Musicビジネスの専業化を検討すると良いでしょう。

まとめ

■Production Musicは

  • 映像をサポートする役割
  • セリフを邪魔しない
  • 魅力的で単刀直入なイントロが必要
  • 明確なヒットで終わるエンディングが絶対
  • 曲調に一貫性が必要
  • 明確な感情表現が必要
  • 現代的な音楽である事が大事
  • 歌モノよりインストの方が需要が高い
  • プレイスメントにはフォアグラウンドとバックグラウンドがある
  • 楽曲使用料で生活できるポテンシャルがある
  • 成果が出るまでに時間がかかる

”質と量”の勝負。トレンドをよく理解して上質な曲のカタログを育てよう

Production Musicビジネスの具体的な進め方、Libraryへのアプローチの仕方に関してはこちらの記事で解説しています。