それ詐欺です!曲を送ってはいけないLibrary
- 2020.03.24
- Production Musicビジネス徹底解説
- テレビ BGM, プロダクションミュージック, マスタリング, ミックス, 作曲家
この記事では、作曲家に不利益をもたらす、契約してはいけないLibraryの特徴など解説します。
Production Musicビジネスは大金が動く業界=詐欺のリスクあり!
ここまでProduction Musicビジネスの可能性についてご紹介してきました。Production Musicは、近年のコンテンツ産業の盛り上がりに合わせて成長中の分野だと言えます。元々、大手の放送局やゲーム会社、映画制作会社など、資金力が豊富な企業をクライアントに持っているため、日々、多額のお金が動く業界でもあります。
Production Musicビジネスって稼げるの?[即答、稼げます]
多くのLibraryが正当な契約の元、作曲家のパートナーとしてプレイスメントを獲得し、作曲家に利益をもたらしてくれています。
しかし残念な事に、ある一定数、業界のスタンダードと大きく解離した不当な契約を持ちかけるLibraryや、契約後まったく営業を行わず作曲家から預かった曲を台無しにしてしまうLibraryが存在する事も事実です。
このブログを読んでProduction Musicビジネスに参入される方は、業界事情に疎かったり、英語でのコミュニケーションに不慣れだったりするので良いLibraryと悪いLibraryを見分けるのが難しいかもしれません。
新規参入者が不当な契約を結んで、お金や楽曲の権利を失う事が無い様に、この記事では契約してはいけいないBad Libraryの特徴を解説していきます。
契約してはいけないLibraryの3つの特徴
1.契約に際して、作曲家に金銭を要求する
一番典型的な例は、契約の際に何かと理由を付けて作曲家に支払いを要求するPay to PlayモデルのLibraryです。
一例として
- 作曲家が5ドルぐらいお金を払い、無審査で曲がカタログに登録される。
- 大概はWebサイトで華々しい大手放送局の有名番組のプレイスメント実績が書かれている、
- 登録すれば、それらの番組にプレイスメントされて著作権使用料で元が取れる(かも)と主張
しかし、よく考えてください。Music Supervisorは複数のLibraryのカタログを聴いてイメージにあった曲をピックアップしていきます。仮にこのLibraryのカタログを聴いたとしても、その中から曲が選ばれる保証はどこにもありません。
さらに言えば、Production Music Libraryの存在意義は作曲家から送られた曲からブロードキャストクオリティを満たす曲だけを選別する事です。
無審査でブロードキャストクオリティを満たさない曲が混ざっているカタログはMusic Supervisorとしては迷惑なだけで価値がありません。その中から曲を選ぶとは思えません。
作曲家が身を削る思いをして作った曲の権利をLibraryに一部、譲ることでLibraryがその曲を使ってビジネスをする事を可能にしています。商品の大元となる著作権を生み出したのは誰でしょうか?間違いなく作曲家です。
では作曲家がPay to PlayモデルのLibraryに払うのは、なんの代金でしょうか?
- 商品の生産者は作曲家です
- Libraryは曲のプレイスメントを保証できない
- 選別が行われていないので、プロモーションもできない。
支払いに対する対価がよく分からないですよね?
対価が得られないお金は、寄付でない限り決して支払ってはいけません。
視聴回数が増えて宣伝になる?
しかし、曲の権利は既にLibraryに譲渡されていますので、カタログ上での視聴回数が増えても作曲家の利益にはなりません。権利譲渡後、作曲家がその曲から利益を得るには、Consideration Fee,Sync Fee、プレイスメントによる、P.R.Oからの分配を受け取る時のみです。そして通常は作曲家と同額の著作権使用料をLibraryも受け取ります。
Consideration Fee, Sync Feeに関してはこちらを参考にしてください。
そう考えると、このPay to Play モデルがいかに作曲家にメリットの無い取引だとわかると思います。単にお金がかかるだけならまだしも、契約がExclusiveだった場合、大事な曲の権利まで取られてしまうのでこれは大問題です。
Libraryは曲をプロモートしてもしなくても、たくさんの曲を集めるだけで利益をあげる事ができます。このLibraryにとってのメインの顧客は楽曲使用者ではなく作曲家なのは明らかですね。
しかし、中にはPay to Playモデルを採用しつつ作曲家から比較的評判の良いサービスを提供している所もあります。
代表的なのが、 Taxi.comです。厳密にはLibraryとは少し違うのですが、こちらは現役で活躍している作曲家や業界関係者から比較的評判が良いです。私自身は利用した事が無いので、深く言及するのは控えます。
ただ、基本的には作曲家は曲の権利を提供する側だという事を理解して、納得いく対価が得られない限り、Pay to PlayモデルのLibraryとは契約しない方が良いでしょう。
2.作曲家取り分を不当に減らす契約を求める
こちらの記事で、Production Musicビジネスが得られる3種類の収益を解説しました。記事のなかで、3種類のうちConsideration FeeとSync Feeに関しては残念な事に、支払われない契約が主流になりつつある事、場合によってはそれを受け入れた方が良い事を書きました。
しかしBackend Royalty、つまり著作権使用料の分配に関しては作曲家の収入の柱となるので、簡単に譲歩してはいけません。また、業界のスタンダードとして著作権使用料の総額の50%が作曲家取り分として保証されている事も覚えておきましょう。
このルールは、暗黙の了解の様な物なので契約書次第で変更が可能です。しかし、業界でちゃんと活動しているLibraryはこのルールに従っていますし、キャリアの長い作曲家はこの事を知っていますから、不当に分配率を下げるLibraryとは契約しません。
このブログで何度もお伝えしている様に、Production Musicビジネスは、短期間ですぐに成果の出るものではなく、長期にわたりLibraryと契約を重ねた楽曲から少しずつ著作権使用料を積み上げていくビジネスモデルです。
分配率を不当に下げられた場合の長期的な収入へのインパクトはSync FeeやConsideration Feeとは比べ物になりません。
分配率を下げる契約=詐欺的とまでは言い切れませんが、明確な理由がない限り50%を割り込む契約には応じない方が良いでしょう。
様々なテクノロジーやNetflix等のインターネットTVの登場により、業界は常に変化していますので、今後も新しい契約形態が登場してくるかもしれませんが、契約内容をよく理解して、不当な契約書にサインしない様に注意しましょう。
3.プレイスメント実績がまったく公開されていない
こちらの記事でも書きましたが、ウェブサイトに記載されているプレイスメント実績は、Libraryがどんなクライアントを持っていて、どんな曲を必要としているかを知ると共に、そのLibraryが業界でちゃんとした活動をしているかを知る為にとても重要な情報になります。
著作権譲渡契約を結ぶ事によって、作曲家は大事な曲の権利の大半を譲渡する事になります。そうすると曲を自由に公開したり、マネタイズしたり出来なくなります。
Libraryとの契約は、TV等のプレイスメントを獲得して著作権使用料を得られるチャンスであると同時に、大事な曲の権利を手放す行為である事を認識しましょう。
契約曲からプレイスメントを獲得する為に積極的に動いてくれるLibraryで、しかも自分の制作スタイルとクライアントの需要が合っていなければ、作曲家はただ著作権を失うだけになってしまうので、直近のプレイスメント実績は、特に注視するべきです。
Reversion clauseについて
Libraryとの契約にはReversion Clauseという項目があります。これは一定の期間の間に、プレイスメントを獲得できなければ、曲の権利を作曲家に戻すという物です。期間は通常、2年から3年が多いです。
なかには、
Auto-Renewal every 2years unless stated by a written document
と書かれている契約書もあります。これは、
契約自体は2年だけど書類で申告しない限りは自動更新
という事です。
ここでいう書類とは法的な効力のある書類の事で、口頭での約束やメールで了解を取っただけでは不十分です。
ただし実際はReversion Clauseを適用しない契約も多く、その場合は、
Term of Agreement(契約期間)is Perpetual/Forever(無期限)
と記載されています。
これは一度契約したら作曲家側からは破棄できないという事です。作曲家には不利ですが、こういうタイプの契約は結構多いので、契約前に慎重に検討しましょう。
Reversion Clauseは必須?
これは正直難しいところです。Reversion Clauseがあったほうが良いのは間違いありませんが、現状、期限をPerpetualとするLibraryが多いのでReversion Clauseにこだわり過ぎると、選択肢が限られてしまいます。
契約書にReversion Clauseを盛り込む様に交渉する事は可能ですが、あなたの作曲家としての価値を十分に認めてくれているLibraryでないと、なかなか難しいと思います。
現実的には、ちゃんと運営されているLibraryのカタログであれば、長期に渡ってプレイスメントを獲得してくれるので、Reversion Clauseを使う必要もない訳ですから、楽曲を送る時点でよくLibraryをリサーチして、良いLibraryと契約する事が一番大事です。
まとめ
まずは、何よりLibraryのリサーチを入念にして、自分のスタイルに合っていて、業界で確かなプレイスメント実績があるLibraryとの契約を目指しましょう。
一つのLibraryにすべての曲を預けるのではなく、複数のLibraryと分散して契約しリスクヘッジをしておく事。あとは契約Library毎の獲得プレイスメントの量と質を把握しておき、より多くのプレイスメントを獲得してくれるLibraryに重点的に曲を送る等、収益率を高めていくのが良いでしょう。
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