複数のLibraryに同時に楽曲を送っても良いのか?
- 2022.06.29
- Production Musicビジネス徹底解説
- BGM, DTM, Production Music, テレビ 作曲家, テレビ 音楽, 著作権, 音楽ビジネス, 音楽出版社
Production Musicに関する発信を続ける中で、最も多く頂く質問の一つに
“複数のLibraryに同時に楽曲を送っても良いのか?”
というのがあります。
結論から言うと、
”問題ない。でも注意が必要”
です。
この記事ではこの辺りを解説していきたいと思います。
契約の種類
Production Musicには2種類の契約形態があります。
Exclusive(独占契約)とNon-Exclusive(非独占)です。
詳しい解説はこちら↓の記事を参考にして下さい。
複数のLibraryに同時に楽曲を送る行為についてですが、Non-Exclusive契約の場合は、そもそも楽曲の取り扱いに関して一切の制約を受けないので、全く問題ありません。
Exclusive契約の場合、他のLibraryと契約していない楽曲のみ契約可能であるため、複数のLibraryに働きかける事への懸念が生じます。
著作権の所在
この懸念には、2つのファクターが存在します。
ひとつは法律的な懸念。
もうひとつはLibraryとの信頼構築に対する懸念です。
法律的な懸念
これを考えるには、楽曲の著作権がどの段階で誰の元にあるかを知る必要があります。
こちら↓↓の記事に書きましたが、楽曲の著作権というのは、曲を譜面やテープレコーダーなどに記録し、自分以外の誰かがアイデアを再現出来る形に落とし込んだ瞬間に自動的に発生します。
作曲者が楽曲に対する著作権を得るために、一切の登録作業を要しません。
契約によって権利が譲渡されるまでは、楽曲に関する全ての権利を作曲家が保持します。
これを踏まえた上で考えると、Libraryに楽曲を提出する段階では作曲者が全ての権利を保持しています。複数のLibraryに提出しようが、音源としてリリースしようが、SNSで公開しようが、自由なので法律的な問題は一切ありません。
権利が譲渡されるのはLibraryと契約の合意が成されて、契約書にお互いサインした段階です。それ以降は楽曲の取り扱いは契約内容を遵守する必要があります。
Exclusive契約を採用しているLibraryに関しては、他社と契約をしていない楽曲の提出を求めていますし、契約書にも作曲者がそれを宣誓する項目があるので、契約後は注意してください。
少し余談になりますが、
“Libraryと契約した楽曲をSpotifyで売っても良いのか?又は既にSpotiftyでリリースした楽曲をLibraryに提出しても良いのか?”
という質問もよく頂きます。
これに関しては
“Libraryとの契約内容に依る”
としかお答えできません。
Production MusicにおけるExclusive契約とは、Libraryがクライアントに対して楽曲を放送使用して貰うために独占的にプロモートできる権利の譲渡です。
音源としてリリースする権利に関しては契約書で触れられていないケースもよくあります。
しかし、広い意味での”楽曲の取り扱い方”を一任する事を認める。といった解釈での契約の場合もあり、SNSでの公開を含め楽曲の取り扱い全てのコントロールを委譲する事を求められる契約も多いです。
お互いの解釈に食い違いが生じない様に、もし楽曲のリリースを考えている場合やリリース済みの曲を送る際は、必ずLibraryに確認を取って下さい。
ちなみに、私自身はProduction Musicとして制作している楽曲に関しては、音源としてのリリースは考えず、契約後の楽曲に関しては既に自分の楽曲では無いものとして扱い、SNS等に公開する事もありません。
私はProduction Musicを本業と位置付けているので、パートナーであるLibraryとトラブルになりそうな行動は避けています。ただ、リリース済みの楽曲をLibraryと契約しているコンポーザーは実際にいますし、著名なアーティストのリリース済みの楽曲がLibrary登録されているケースもあり、基本的には個別の対応が必要になります。
話を本題に戻すと、複数のLibraryに楽曲を提出する事は法律上、何の問題もないという事です。
Libraryとの信頼構築に対する懸念
上述の通り、Exclusive契約は一つのLibraryとしか結ぶ事ができません。
にも関わらず、
”多くのLibraryに楽曲をばら撒いて働きかけるのは、不誠実ではないか?”
というのが恐らく、この件に関して質問を下さる方々の懸念だと思います。
Libraryと良好な関係を築く事こそが最も大切なProduction Musicビジネスをやる上でその感覚は正しいと思います。
実際、楽曲を複数のLibraryに提出した際、同時に幾つかのLibraryから契約を持ちかけられたら、こちらからアプローチしたにも関わらず、一つを選び他はお断りをしなければなりません。
これは非常に心苦しい事ですし、その後そのLibraryと取引する事は難しくなってしまう可能性もあります。
ただ正直な所、Libraryもビジネスとしてやっているので、よほどマズい対応をしなければ、それだけでブラックリストに入れられたりはしないと思います。
とはいえ、Production Musicビジネスは狭い業界ですので、あまり度を越した行動を繰り返すと良く無い噂が広まってしまい、その後の活動がやり難くなる事も考えられます。
私の対策
では、やはり1つずつ送っていき、返事が来るまで待ってRejectされたら次のLibraryに送るべきでしょうか?
しかし、このやり方には大きな問題があります。
多くのLibraryでは、楽曲提出に対して契約する予定のコンポーザーにしか返事をしません。なのでコンポーザーは楽曲がRejectされている事を知る事が出来ないのです。
私は個人的な経験から提出後、1〜2ヶ月で返信がなければRejectされたと判断する事にしています。
ただ近年、参入者増加の影響か、LIbraryからの返信が 遅くなっている傾向があり、半年後に返事を貰う事も増えていて判断が難しくなって来ています。
もしLibrary1社提出ごとに数ヶ月間、返事を待っていたら年間で最大でも5、6社くらいにしかアプローチできません。
新規契約の難しさ
これから参入する方に知っていて欲しいのは、新規コンポーザーとしてLibraryと契約するハードルはなかなか高いという事です。私も事あるごとに言っていますが、最初の契約が取れるまでに40社を超えるLibraryに楽曲を送った末、ようやくアクセプトされた過去があります。
また、この業界で既に10年近く活動して1000曲を超える契約を得てきた私ですが、取引の無い新規のLibraryに楽曲を送ると、かなりの確率で返信がもらえずRejectされます。
単純に私の楽曲のクオリティだけの問題ではなく、業界の事情、Libraryの事情、タイミングなど理由は様々ですが、最初の契約を勝ち取るのはそれほどに難しいです。
参入初期にまず一番大切なのは、少しでも多くの楽曲を良質なLibraryと契約して四半期ごとの著作権使用料を安定させる事です。
そのためには最低200〜300曲またはそれ以上を良いLibraryと契約する必要があり、一度の提出ごとに数ヶ月返事を待っている余裕はありません。
私ならいくつかのLibraryに同時に楽曲を送り、2ヶ月くらいの様子見の期間を設け、返信がなかったらLibraryにキャッチアップのメールを丁寧な文書で送ります。
Libraryの業務は基本的に多忙なので数週間では早すぎます。
内容も問い詰めるような感じではなく、
”申し訳ないんだけど数ヶ月前に送った楽曲がちゃんと届いているか確認してもらえないか?”
といった趣旨で書きます。
キャッチアップメールを送った後、2週間経過しても返事がなければ”脈無し”と判断して次のLibraryに提出します。
⚠️Libraryの提出ガイドラインにキャッチアップを送らない様、明記している場合は絶対に従いましょう。ガイドラインに従わない提出は何より嫌われます。
また、リジェクトを知らせてくれるLibraryも稀にありますが、その際はリジェクトの理由を尋ねるメールは送らないで下さい。これも業界慣習的にNGです。
複数のLibraryから同時に返事が来てしまった場合どうするか。
条件の良い方を選び、もう一方には丁寧にお断りの返事をしましょう。その時、同じ様な楽曲を提供できますが、よかったら新規に作成しましょうか?という感じで、ソフトに売り込みをかけてみても良いでしょう。
Production Musicは人と人の繋がりで進んでいくビジネスなのでうまく行けば次のバンドルの契約が取れるかも知れません。
一度に送るLibraryの数はどんなに多くても10社程度にして、手当たり次第に送るのではなくLibraryのカタログの傾向、クライアントの傾向、過去のプレイスメント実績をよくリサーチして 厳選して下さい。
Libraryの連絡リストが必要な方には私がnoteの有料記事として販売している
”Production Musicビジネススタートアップガイド”
の付録として90以上のLibraryの連絡先リストを提供しています。
ブログを読んで本格的に参入を決めた方向けに、より踏み込んだ解説と楽曲提出の仕方をステップバイステップでレクチャーする30day challengeなどを紹介するになっていますので、良かったらどうぞ。
https://note.com/musicbiz/n/n2546a51ed37b
Libraryをリサーチしていく中で、特に強く契約を希望するLibraryが見つかった場合は、そのLibraryだけは他と被らない様に単独で送ってみるなどの戦略も良いかも知れません。
とにかく大事な事は1つの楽曲に対して複数のLibraryとExclusive契約を結ばない様にする事。
この点だけ守っていれば、あとは最低限のマナーを遵守しながらLibrary側と適宜、交渉をしていけば良いと思います。
契約済みのLibraryに曲を送る場合
ここまでは新規契約を目指して楽曲を送る場合の話でした。
ここから既に一度契約したことがあるLibraryに再度、別の楽曲を送る場合について説明します。
前にも書いた様に、新規契約のハードルはかなり高いです。一方で契約が済んでいるLibraryとのやりとりはずっと簡単になることが多いです。(Libraryの運営ポリシーに依ります)
一つには信頼の問題で、取引があるLibraryでは契約が済んでいるコンポーザーはLibrary側のポリシーやスタンスを理解し承諾しているパートナーコンポーザーとして扱われるため、新たに詳細な交渉をしなくても良いこと。
あとは実際の契約プロセスとして、初回契約時は、正式な契約書を送付、条件を交渉してサインして送り返すなど手間がかかりますが、既契約コンポーザーは契約書内のSchedule Aと呼ばれる契約曲リストに新たに契約する楽曲を追加するだけで済むので、契約手続きが簡単な事もあります。
そんな訳で私の場合、取引が既にあるLibraryに楽曲を送る場合は、アクセプト率は80%を超えます。提出した曲はほぼ契約できる状態です。
その状態で複数のLibraryに送ってしまうと、高い確率でダブルブッキングになり、どこかにお断りをしなければいけなくなります。
それを繰り返せば、それまでせっかく築いてきた信頼関係が崩れてしまう事にもなりかねないので、取引のあるLibraryに曲を送る際は1社ずつ送る事をお勧めします。
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