Custom Jobについて

Custom Jobについて

この記事では、Production Music Libraryから受注する事があるCustom Job(Custom Work)について解説します。

Production Music Composerの仕事の進め方

Production Music Composerの基本的な働き方のサイクルは

  1. 契約したいLibraryを探す
  2. Libraryのカタログをリサーチして需要のありそうなジャンルを特定する
  3. リファレンストラックを探す
  4. 楽曲を制作する
  5. Libraryに提出

という流れを自発的に繰り返します。

どのLibraryに、どの様な曲を、いつ送るかはComposer次第です。仕事をする時間や量を自分でコントロールできるのが、Production Musicビジネスの1番の利点だともいえますが、この段階での需要の分析や楽曲制作の質が成功できるかどうかを分けることになります。

 

Custom Job

 この様にProduction Musicは基本的にComposer側からの売り込みによってビジネスが始まりますが、Custom Jobは逆にLibrary側からComposerに持ちかけられる作曲依頼の事です。

 Libraryは通常、Composerと出版契約を結び楽曲をTV番組制作会社等に売り込み楽曲を使用してもらう事で発生する著作権使用料をComposerと折半する形で利益を上げます。

Libraryは稀に制作会社側から楽曲制作の依頼を請け負う事があります。

Libraryの中にはオーナーが元々、Production Music Composerとして活動していた人で自らLibraryを立ち上げた所もあります。そういうLibraryではそのオーナー自らが依頼を受注して制作する事でしょう。

また、普段契約しているComposerの他に数名の専属作家(インハウスコンポーザ-)を抱えているところもあり、Custom Jobの多くはそういう人たちが優先的に受注するケースが多い様に思います。

こういうケースに当てはまらない、もしくはそれでも対応しきれない量の発注があった場合、我々、一般のProduction Music Composerに案件が降りてきます。

受注するには

一般のComposerはCustom Job受注の序列の一番下に位置します。

それでもCustom Jobにはメリットもあるのでどうしたら受注できるのか考えます。

まずLibraryにとってCustom Jobの受注は大変、重要な意味を持ちます。

 普段、楽曲を使用してもらっているクライアントが信頼して依頼する訳ですから失敗する訳には行きません。プロジェクト自体の成否もありますが、それ以上にクライアントが持っている他の番組への将来的な楽曲プレイスメントにも影響を及ぼします。

Library側としては絶対に質の低いものは提示できないので、必然的にオーナー作曲家自身が取り組むか信頼のおけるインハウスコンポーザーに任せる事になります。

それでも対応できない場合、一般のComposerに案件が降りてくるわけですが、これも全ての契約Composerが受注できるとは限りません。

Libraryの規模は様々で、オーナーと他、数名で回している様なところもあれば大手になれば数百名以上のComposerを抱えている所もあります。

ただ、大手の場合で考えても数百名と契約していても、そのなかで数100曲以上契約している人から1曲だけの人まで色々です。

数100曲も契約しているという事は

  • その人が制作した楽曲が需要が高く、沢山プレイスメントされてLibraryの利益に貢献して来た。
  • 契約上の手続き等が円滑に行える信頼のおける人物である

といえます。

Libraryに対して既に一定の信頼関係を築いているComposerはCustom Jobを受注できる可能性が高まります。

なので最近、数曲だけ契約をした段階でCustom Jobを受注するのは難しいと思います。

コツコツと契約を重ねて信頼を勝ち取って行く事が必要です。

受注のしかた

通常、メールで打診があります。

 内容的には番組名、放送局名、想定される使用用途、ジャンルや細かなディレクション、リファレンス、契約内容などが記載されます。

 Library側に物凄く信頼されていれば完全指名で受注できることもあるかもしれませんが、ほとんどの場合は他のComposerにも同じ内容が送られてコンペ形式になります。

 通常の楽曲コンペと大きく違うのは、仮に採用されなくともその後、Libraryと出版契約を結びカタログの中に入れてもらえる場合がほとんどなので作ったものが全くの無駄にはならないというのが大きな利点です。

 Library側としてもCustom Jobとして受注する様なジャンルは世間で需要が高まっているということですのでカタログを強化したいという狙いがあり、双方にとって良いディールになる事が多いです。

契約形態

通常の出版契約

 Production Musicの契約では Composerが制作した楽曲をLibraryと出版契約して楽曲使用に際して発生するSync FeeとPerformance Royalty を所定のパーセンテージでComposerとLibraryで分けるのが普通です。

契約に際してConsideration Fee,Demo Feeとして前払いされる仕組みも一応は有るのですが近年、ほとんどのLibraryがConsideration Fee無しの契約を提示している様です。

これに関する是非はこちらの記事で解説しています。

Custom Jobの契約

 Libraryに依って、また案件に依って違うので断言はできないのですが、最初に一定額のSync Feeの支払いを受けた後、Performance Royaltyの受け取りを放棄する買取契約の様な形をとる事が多いです。楽曲はカタログには載らず、P.R.Oにも登録されません。

 通常の出版契約をした場合でも、Sync Feeの分配を受ける権利があります。一概には言えませんが、Custom Jobの場合、その後のPerformance Royaltyの受け取りを諦める必要があるためより高額なSync Feeが提示される事が多いです。

その額は数百ドル〜数万ドル(幻の珍獣レベルですが実際に存在します)

Custom Jobへの考え方

 Production Musicでは楽曲を契約してプレイスメントされP.R.Oを経由して著作権使用料を受け取るまで早くとも1年弱かかり、その後も安定した収益を上げられる様になるまでさらに長い時間がかかる大変、忍耐の必要なビジネスです。その中にあって高額なSync Feeを即座に得られるCustom Jobは大変魅力的に映ります。

 しかし、その案件自体がそう多くなく、コンペ形式の中で採用を勝ち取るのも大変です。上記のSync Fee数万ドルレベルの案件など数年に一度あれば多いくらいの物だと考えてください。

実際、案件がきた場合には、全力で取り組むのは良いと思いますが、その収益に過度に期待することには私は否定的です。

 Production Musicビジネスの良さは、自分でリサーチして戦略を練り、自分のペース楽曲制作をして契約を積み上げて行く事で少しずつ収益が安定して行く”積み上げ型”の仕事ができる事です。

単発的に発生する高額Sync FeeのCustom Job案件に惑わされてこの積み上げが出来ないのでは本末転倒です。

 Production Musicを本業として成立させたいと考えるのであれば、日々の楽曲契約によって少しづつ積み上がっていくPerformance Royalty に注目する事が望ましいと個人的な経験上、考えています。

Libraryごとの違い

 ここまで一般的なProduction Musicの出版契約とCustom Jobの違いを対比しながら解説してきましたが、契約の仕方はLibraryごとに違いがあって、Custom JobであってもPerformance Royaltyを受け取れる契約だったり、中にはデモの審査を通過したComposerにのみCustom Jobという名目でメールを送り楽曲を募り一般の出版契約をするLibraryがあったり色々です。

また通常の出版契約でもComposerに特定のジャンルを作るように依頼してくるLibraryもあります。

 その場合、私は対応可能なジャンルで時間が許す限り受ける様にしています。Libraryから直々に、お題を与えられるという事はそのジャンルは需要が高まっているという事なので、プレイスメントの期待が持てますし、そういった要望に日頃から答えておく事で信頼も高まって、より大きな案件を任せて貰えるかもしれないので。

 とはいえ、ジャンル的にキツかったりあまり気乗りしない場合は断る事もあります。ほとんどありませんがごく稀に、それでもどうしてもお願いしたいと再度、頼まれる事もあり、そういう時はConsideration Feeを用意してもらうとか、個別に交渉しています。

 もしかしたら日本人はそういう条件面の交渉になれていない人が多いので、相手に悪印象を持たれてしまうかもと心配する方もいるかもしれませんが、アメリカの社会では、まず自分の受け入れ可能な条件を明確に提示するというのは全く問題ありません。

 もちろん全て受け入れてもらえるとは限りませんが、まずは意思表示を明確にする事の方がアメリカ社会の中では良しとされます。

逆に交渉した結果、こちらに不利益な対応をしてくる様なLibraryは問題ありなので早々に契約を取りやめるべきです。

まずは敬意をもって交渉してみましょう。