コード分析Vo.2 Earth Wind & Fire “After the Love Has Gone”

コード分析Vo.2 Earth Wind & Fire “After the Love Has Gone”

 今回取り上げるのは、だいぶ古めの曲でEarth Wind & Fireのヒット曲“After the Love Has Gone”です。

 1979年にリリースされたこの楽曲は失恋を歌ったロマンティックな楽曲で、今ではEarth Wind &Fireの代表曲の一つになっています。

 この曲以前はファンキーなDiscoサウンドの代表格だったEarth Wind & Fireですが、そこに一石を投じたのが、この楽曲の作曲者でもある、泣く子も黙るスーパープロデューサー” David Foster”

サウンドを聴けばこの楽曲に彼が及ぼした影響力の大きさを聴き取る事ができるはずです。

 一聴するとヒットの香りがプンプンするキャッチーな楽曲ですが、ミュージシャン的な視点でこの曲を分析していくと、この楽曲のトンデモない側面に直ぐに気づく事でしょう。

事実、ある年代以上のミュージシャンにとっては、ぶっ飛んだコード進行の曲として、とても有名です。

それではDavid Fosterがこの曲に施した魔法の数々をじっくり探っていきましょう。

まずは聴いてみましょう

コード進行とコード伴奏の参考音源

コード進行と私の分析、参考のコード伴奏音源です。

 コード伴奏

分析

Aセクション(イントロ)

曲の最初はキーFメジャー。

ちなみにこの楽曲は転調の嵐なので今、自分が何キーにいるのかが、とても重要になるので分析をするたびにしっかり確認してください。

イントロはごく普通のダイアトニックコードなので特筆する事もありません。

強いて言うならば、4小節目のBb/Cですが、これはⅣコードのベースがVになっているだけでサウンドはCsus4(9)とほぼ一緒でドミナントコードとして次のFに普通に解決します。

Bセクション(Aメロ)

10小節目のBbm7/Fですが、これは同主短調のFマイナーから借用したⅣm7で

コード機能としてはサブドミナントマイナーです。

そのボトムがF(Bbm7の5度)になっていて前後関係は

F→Bbm/F→F

となっており最低音のFがペダル音で上の和音だけが動いて元に戻る流れです。

また、このブログでは著作権の関係でメロディを表記することができないのですが、

Bbm/Fに行った時のメロディはC(Bbの9th)となっており、非常におしゃれな響きになります。

 この曲ではコード進行の巧みさに加えて、メロディの音づかいが和音に対して非常に効果的なので是非、音源を聴くなり自分でメロディを演奏するなりして確認してください。

15小節目のEb69は同主短調のFマイナーキーからの借用でbⅦ7。

(この曲ではトライアドに6th、9thを足して69コードとして使っていますが)

19小節目のG#m7ですが、これはGm7から半音でFadd/Aに動くための経過和音としてGm7を平行にスライドさせているだけなのでコード機能は特にありません。

しかし、このコードがリズムのキメと一緒に出てくることで、スリリングな効果をもたらしていると思います。

Cセクション(Bメロ)

さてここまでは準備運動、ここからが本番です。

28小節目のB7Sus4(9,13)をどの様に分析したら良いでしょうか?

V7以外の7thコードが出てきた時にまず考えるのが2次ドミナントです。

コードの形はB7(ドミナントコード)がSus4化してテンションが乗っているだけです。

B7の通常の解決先はEコードですが、E音はFメジャーキーの7度の音になります。

音楽理論を覚えているでしょうか?

7度の音の上に出来るダイアトニックコードに向かう2次ドミナントは存在しません。

ましてや解決するEMaj7はFメジャーキーのダイアトニックですらありません。

故に、2次ドミナントではありません。

 Fメジャーキーのまま分析するとB7sus4の度数は#Ⅳ7sus4となります。

他のキーからの借用も考えてみますが、この様な奇怪なコードは定番の借用コードの中には見当たりません。

かなりマニアックなモードからの借用を探せば、こじつける事ができるかもしれませんが、借用コードの可能性も低いと考える方が普通でしょう。

そうなると次に考えるのは、B7の通常の解決先であるEMaj7に解決しそのまま転調する為のピボットコードである可能性です。

続くコードを見ても、Fメジャーキーとは縁遠いコードが並んでいるのでやはりこのコードから転調していると考えるのが自然でしょう。

ちなみにコードの機能とは別に、音の積み方で見ると、B7sus4(9,13)は

B,A,C#,E,G#となり、AMaj7/Bと表す事もできます。

B7sus4(9,13)が転調のためのピボットコードだということは分かりましたが、解決先のEMaj7をIMaj7としたEメジャーキーのVコードとして考えるという事で良いでしょうか?

実はこれはまだ分かりません。

この段階ではまだキーが確立されておらず、EMaj7をダイアトニックに含む別のキーの2次ドミナントとして機能している可能性も捨てきれません。

メジャーダイアトニックにおけるMaj7コードの可能性はⅠMaj7かⅣMaj7の二つです。

(短調に行くことも可能だが、音づかいはその平行調と一緒なので、ここでは深く考えずにメジャーキーに限定して考える)

つまりEMaj7はEメジャーキーのⅠMaj7もしくは、BメジャーキーのⅣMaj7であるかのどちらかであると考えられる。

この小節だけを見てもその判断はできないため、その後の文脈やメロディーとの関係で判断していくことになります。

この記事では権利の関係上、メロディは扱えないので続くコード進行から探っていきましょう。

29-32小節を見てみると、転調して全く別のコード進行の様に見えますが、25小節〜28小節目まで(“B7sus4(9.13)”を除く)のコード進行をそのまま増4度平行移動させた進行になっている事に気づきます。

25〜28小節: BbMaj7-F/A-Dm7-Gm7-F (ⅣMaj7-Ⅰ/3-Ⅵm7-Ⅱm7) Fメジャーキー

29〜32小節: EbMaj7-B/D#-G#m7-C#m7-B (ⅣMaj7-Ⅰ/3-Ⅵm7-Ⅱm7) Bメジャーキー

このことから28小節目のB7sus4(9,13)はBメジャーキーのⅣMaj7であるEMaj7に

解決する2次ドミナント V7sus4/Ⅳ (in Key=B)と分析できます。

ちなみに後に続くB/D#、G#m7、 C#m7も一応、Eメジャーのダイアトニックとしても分析が可能なので、EMaj7をⅠMaj7としてEメジャーキーへの転調と見ることも出来なくはないが、

  • Eメジャーキーだとすると32小節目のBMaj7がVMaj7となり、分析が出来ない為、再びここでBメジャーに転調していると考える必要がある
  • 掲載できないがメロディそのものも、前の4小節から増4度上に平行移動している

以上の理由でBメジャーキーとして分析する方が合理的だと考えます。

 コードのみで判断が出来ないケースでは、メロディが大きなヒントになるのですが、その点でもこの曲は巧妙さを感じます。

EメジャーキーとBメジャーキーのどちらかで迷った場合は、調号的にはラの音がナチュラルかシャープしているかが判断の基準になりますが、この曲では意図的かは分かりませんが、メロディにラの音が出てこないのでメロディの音使いからの判断が難しくなっています。

Dセクション(サビ)

いよいよサビの部分ですが、冒頭でまた転調しています。キーはなんでしょうか?

まずは登場するコードがダイアトニックになるキーを探すと良いと思います。

最初4小節をみると、Cm7、Fm7、Bbm7、Eb7。

この4つがダイアトニックになり得るのはAbメジャーキーです。

Cm7 (Ⅲm7)、Fm7(Ⅵm7)、Bbm7(Ⅱm7)、Eb7(V7)

さらに○7コードが出てきている場合はその解決先のコードがⅠコードである可能性が高いので

Abメジャーキーへの転調と考えることができます。

この様にたとえⅠコードが出てこなくても、文脈や7thコードの解決先から、ある程度キーを特定することができます。

この場合はBメジャーキーからAbメジャーキーに短3度下への転調となります。

続きを見てみましょう。

38小節目から

Abm7-Db7sus4(9)-Db9-GbMaj9-Abm7-Bbm7

37小節目でAbメジャーキーのV7と分析したEb7は、本来ならIMaj7のAbMaj7に解決するはずですが、

ここで出てきたのは、Abm7。

これはどのように解釈したら良いでしょうか?

同主短調であるAbマイナーキーから借用したⅠm7コードと見ることも可能ですが、続くコードがDb7、GbMaj7なので、これをAbメジャーのままアナライズすると

Ⅰm7-Ⅳ7-bⅦMaj7となります。

この二つが借用コードの場合、

  • Ⅳ7はメロディックマイナーからの借用
  • bⅦMaj7はドリアンもしくはミクソリディアンからの借用

という事になり、

さらに、Ⅰm7がナチュラルマイナーからの借用という事を考えると、コードが変わる度にスケールを乗り換えている事になるので、ポピュラー音楽の観点からすると、少し不自然に感じます。(ジャズとかクラシックなら普通にある)

別の見方をしてみましょう。

仮に40小節目のGbMaj7をⅠMaj7とみると

Abm7-Db7sus4-Db9はGbに対するⅡ-Vと考える事ができます。

続くAbm7-Bbm7もGbキーのⅡm7-Ⅲm7として分析できるので、この考え方がしっくりくる感じがします。

つまり、この4小節のコードは、前の4小節のAbメジャーキーから長2度下に転調したGbメジャーキーのダイアトニックコードだと考える事ができます。

続く4小節ですが、これはサビ頭のコード進行を繰り返している為、キーもすぐさま長2度上がって元のAbメジャーキーに戻ります。

41小節目のBbm7コードが平行移動する形で42小節目のCm7に向かっていますが、

Bbm7コードはGbメジャーキーのⅢm7であると同時に、

AbメジャーキーⅡm7でもあるピボットコードという見方も可能です。

46小節目では再び長2度下に転調してGbメジャーキーになります。

そして48、49小節目でBセクション(Aメロ)の頭に戻る為、AメロのキーであるFメジャーキーに移行する準備をしています。

C7コードはFメジャーキーのV7なので分かりやすいですが、その前のFb/Gbをどの様に解釈したら良いでしょうか?

キーの関係でFbと書きましたが、これはEコードと同じ音使いです。

あえてFbと書いたのには理由があります。

前のコードに着目すると

GbMaj7-Fb/Gb

GbMaj7の長7度の音Fナチュラルは、コードがFb/Gbに移る時、

ボイスリーディングによりFbに解決します。

Fb音はGbから見ると短7度になります。

ボトムの音がペダルとしてGbに固定されている為、私の耳には

GbMaj7-Gb7という7thの音が下降するクリシェ進行に聴こえます。

Fb/GbをGbから度数で表すと

Gb =P1、Ab=9、Cb=P4、Fb=m7

となり、5度がないもののGb7sus4(9)と考えることが可能です。

最終的に到達したいAメロの最初のコードがFである事を考えると、

Gb7はFメジャーキーのbⅡ7としてアナライズできます。

つまりFメジャーキーのドミナントコードのC7の裏コードにあたります。

裏コードと通常のドミナントはいつでも置き換えが可能なのでFb/Gbコードの時点でFメジャーキーへの転調の手続きが始まっていると見ることができます。

さらに言うと、GbMaj7もFメジャーキーのbⅡMaj7でありサブドミナントマイナーの派生として捉える事もでき、見方によってはGbMaj7の時点でFメジャーキーへの転調の準備が始まっている、という見方も可能です。

Fb/Gbを異名同音でより自然なE/F#に直さなかった理由は

  1. GbMaj7-Gb7というクリシェの流れが見えづらくなる
  2. FメジャーキーのbⅡコードであることが見えづらくなる

の2つです。

この様に単体のコードでは不自然でも全体の流れを見た時には異名同音で表した方がコードの機能が見やすい事は多々あります。

キーがそれ程頻繁に変わらないポップスではあまり意識しませんが、転調が多いジャズ、クラシックではその様な表記が一般的です。

Cセクション(Bメロ)リピート後

転調を経て、Aメロに戻ります。

特に変化はありませんので、そのままBメロを見ていきます。

この曲はとても興味深い構成になっています。

 リピート前のBセクションは最初の4小節の後、直ぐにBメジャーキーに転調していますが、リピート後は50小節目でB9#11というコードを挟んで前の4小節の進行をもう一度繰り返してからBメジャーキーに転調します。

 通常、ひと回し目で一通りの構成を紹介しつつ、ふた回し目ではクドさを回避するために繰り返しを省いてサラッとサビに入る曲が多い中、この曲ふた回し目に、ひと回し目でなかった繰り返しをあえて2回り目で入れています。

 この意図を想像すると、ひと回し目で登場した突如、増4度上がってのBメジャーキーへの転調はリスナーに強烈な印象を残したはずです。

 そしてふた回し目に全く同じ進行がくれば、リスナーは当然の様に、また強烈な転調が来ると予測するはずです。

 そこで肩透かしを入れて、あえて転調しないで繰り返すという、更なる驚きを提供しています。

 しかも単に繰り返すだけではなく、ちゃんと次のBメジャーキーのⅣMaj7であるEMaj7に行ける機能を持ったB9#11というコードを使いBメジャーへの転調をギリギリまで匂わせておいて、あえて転調しないのがなんとも計算高い。

Eセクション(サビ)リピート後

Eセクションは基本的にはDセクションと同じサビの進行です。

73小節目で今度はFメジャーキーには戻らず、次のFセクションに向けて、新たな転調の準備をしています。

 先に言ってしまうとFセクションはDセクションと全く同じサビの進行でありながら、完全4度下のDbメジャーキーに転調して平行移動するコード進行です。

 なので73小節目からのコード進行は現在のGbメジャーキーから次のDbメジャーキーへの転調の手続きという事になります。

74小節目のAbm7-Bbm7は66小節目などに出てくる、サビ前半の8小節目でGbメジャーキーからAbメジャーキーに戻るためのピボットコード同じ流れです。

 しかし、ここではAbメジャーキーのⅢm7であるCm7には行かずに、73、74小節の進行

{GbMaj7-Abm7-Bbm7}⇨この進行をブロックとして↑増4度→{BMaj7-Dbm7-Ebm7}-Fm7(DbキーのⅢm7)

のように増4度上のBメジャーキーに平行移動させ、到達すべき次のDbメジャーキーのⅢm7であるFm7に着地してDbメジャーキーに転調するという超難度ウルトラCを決めている。

 どういう人生を歩んだらコード進行を生み出せるのか全く理解が出来ない。

 もちろんこの様な転調をする事を目的に練習曲として書くのなら可能だが、世界的なポップスターの楽曲でヒットが至上命題のなか、これを平然とやってのけるのは本当にすごい事だと思う。

実際、コード進行の難解さとは全く関係無いかの様にキャッチーで、多くの人を惹きつける仕上がりになっている。

Fセクション(大サビ)

大サビのFセクションは完全4度上にのDbメジャーキー、Bメジャーキーにそれぞれ転調している以外はDセクション、Eセクションのサビと全く同じコード進行です。

まとめ

あまりの転調の嵐で訳が分からなくなったので、今、流行りのChatGPTに頼んで、転調の変遷を表にまとめてもらいました。

数えてみたら、全部で14回転調していました。

 もちろん細かい転調を借用コードや一時転調と解釈する事で、全体の転調回数を少なくカウントする事は可能ですが、それにしてもポップソングとは思えない強烈なコード進行である事には変わりありません。

 恐らく、この曲のコード進行が理解出来れば、世の中のポップスの99%は余裕で分析できるんではないかと思います。

 コード分析Vol.2にして最高難度の曲をぶっ込んだわけですが、単にコード進行が複雑だからとか、転調が多いからといった理由で選んだ訳ではありません。

 最初に書いた通り、理屈抜きでパッと聴いた感じ、ヒットの匂いがするキャッチーなポップであるにも関わらず、このコード進行というのが面白いと思ったからです。

 David Fosterの楽曲は常にキャッチーでありながら、どこかに捻くれた仕掛けが隠してありポップスを学ぶものとしては最高の教材だと思いますので、今後も取り上げていくつもりです。

 今回の分析はこれで終わりになりますが、最後にWikipediaに共同作曲者であるジェイ・グレイドンの談話が載っていて面白かったです。

内容をまとめると、

“Bメロ以降、矢継ぎ早にピボットコードを利用した転調を繰り返し用いていますが、それはサビでコーラスセクションが適切なキーで歌える様に調整するためのものでした。しかし、多くのリスナーがこのコーラスパートを主旋律と認識してしまっています。

 Aメロから通して一人シンガーが歌うには音域が広すぎてかなり難しい事になってしまうにも関わらずです。。”

https://en.wikipedia.org/wiki/After_the_Love_Has_Gone

いや、私自身もサビの”After the Love has gone〜♪”は主旋律だと思っていました💦

このセクションはバックコーラスが歌う前提だったんですね。。