TV放送時の音楽の使用状況分析 (by PMA)についての解説

TV放送時の音楽の使用状況分析 (by PMA)についての解説

先日、PMAからアメリカ国内のTV放送で ”どの様な音楽が” ”どれだけ” 使用されているかをまとめたレポートが公開されました。

こちらになります。

まずPMAとは何か?

Production Music Association、略してPMA。

670を超える音楽出版社とコンポーザーが加盟する団体で、一言で言うとProduction Musicに関する、教育、啓蒙、サポート、リサーチをする業界団体です。

私自身は、加入していませんが、有益な情報を得られるので定期的にウェブサイトをチェックしています。

レポート解説

レポート自体は全部で14ページありますが、表紙や加盟団体の紹介などを除くと、実質6ページほどの簡易的なリサーチなのでその部分をそれぞれ解説していきます。レポートは当然、すべて英語で書かれていますが、簡単な内容なので一度、目を通される事をお勧めします。

1.基礎情報

分析は2022年2月11日から3月14日までの約1ヶ月間、アメリカ国内の47のTVチャンネルで放送された番組を対象に行われました。

以下がチャンネル一覧です。

Data provided by bmat.com

CNN、Discovery、Disney,Foxといった超有名所の名前もありますね。この辺はLibraryと契約してロイヤリティステートメントをP.R.Oから受け取る様になると頻繁に目にする様になる筈です。

アメリカのTV放送は、ニュースもバラエティもドラマもスポーツもドキュメンタリーも一つのチャンネルで放送する日本のテレビとは違い、一つのジャンルに特化したチャンネルが沢山あり、好みに見合った番組を視聴者が選んで契約していくスタイルなので、チャンネル毎の音楽使用状況にもそれぞれ特徴があります。

例えば、ESPNはスポーツ専門チャンネルですし、CNNはニュース専門チャンネルといった感じで一つのジャンルに特化した番組を24時間放送しています。

2.全放送時間に対する音楽の使用割合

Data provided by bmat.com

上に示した47チャンネルを1ヶ月モニターした結果、全放送時間のうち39%でなんらかの音楽が使用されていました。

前述の通り、チャンネル毎に放送される番組内容には大きな違いがありますが、トータルで4割近い時間でなにかしらの音楽が鳴っていたというのは、TV放送における音楽の重要性を示していると言えるます。

3.チャンネルごとの全放送時間中の音楽使用率

次に、各チャンネルごとの全放送時間における音楽の使用率を示したのが下のグラフです。

ここでは主要な21チャンネルのみ抜き出して掲載してありますが、これらを比較する事でどのチャンネルで特に音楽多く使用されているかが分かります。

Data provided by bmat.com

上のグラフで青っぽい線が音楽が使用されていた時間、灰色が音楽が使用されていない時間の割合になります。つまり青の割合が大きいチャンネルほど多く音楽を使用している事になります。

一番、青の比率が多いのがInvestigation Discovery(67%)次いでOxygen True Crime(61%)、Food Network(60%)、Outdoor Channel(58%)、TruTV(55%)と続きます。

Crime Investigation

上位2つのチャンネルとTruTVはいわゆる犯罪捜査ドキュメンタリー、ドラマ、リアリティーショウをメインに放送するチャンネルです。

このジャンルは長いこと人気があり、数多くの番組が作成されています。

ドキュメンタリーやリアリティーショウは日本国内ではあまり観ることができませんが、犯罪捜査ドラマに関しては、24、CSI、NCIS、Hawaii Five-Oなど、アメリカ国内だけでなく、世界中で放送されている大ヒットドラマが数えきれないほどあり、このジャンルが如何に人気があるか分かる筈です。

この種の番組ではシーンの合間、台詞の合間などにDramatic Tensionと呼ばれる、緊張感のあるミステリアスなサウンドが多用されます。そして犯人との格闘シーンなど、一番盛り上がるシーンではよりパワフルなEpic Action,Dramatic Actionなど、オーケストラサウンドを多用した迫力ある楽曲も多く使用されます。

番組の性質上、キャストが喋り続けるのではなく、台詞の合間に映像と音楽でミステリアスな雰囲気を演出する事に重きをおいています。

私のブログやTwitterを継続的に見てくれている人は、Dramatic Tensionという言葉を聞いて

ピンと来たかと思います。

Dramatic Tensionは私がメインに制作しているジャンルの一つでLibraryとの契約数、プレイスメント獲得の量、そこから得たロイヤリティもおそらく最も多いです。

元々、このジャンルを多く作ろうと思って始めた訳ではありませんが、常にプレイスメント実績が良く、Libraryからの要望も多かったので自然にそうなって行きましたが、今回のレポートを見て、必然の流れだったのだと確信しました。

私は基本的には自分の得意なジャンルで勝負することを勧めていますので、このデータだけをとってDramatic Tensionを作る事は必ずしも推奨しませんが、もし元々この様なサウンドを作る事が得意ならこのジャンルに力を入れても損は無いと思います。

Dramatic Tensionの一例(おそらく聴いたら、『あのドラマのあの感じね!』と分かる筈)

https://app.bmgproductionmusic.co.uk/carrier/160035

Lifestyle

次いで、音楽使用率が高いのがFood NetworkOutdoor Channelです。

これらはいわゆるLifestyle番組と呼ばれる料理、DIY、アウトドア、旅番組など、日常生活に沿った内容を放送するチャンネルです。

こちらも非常に人気があり番組の内容は多岐に渡ります。

のどかでアコースティックなサウンドやあまり壮大でないこじんまりとした曲が好まれます。そういった意味でウクレレやアコースティックギターなどが多用される傾向にあると思います。

(ただし、時代と共にソフトなエレクトロ系楽曲が使われる事が増えてきた印象。)

このジャンルも、台詞の情報よりも、美味しそうな料理、綺麗な景色など映像で訴求する時間が長いので音楽の使用時間も長くなります。

バンドサウンドやアコースティック系の楽曲が得意な人、特にギターを演奏できる人には狙い目のジャンルかもしれません。

ただし、生楽器を多用するジャンルでは、よりサウンドのクオリティリアルさを求められる傾向で、特に打ち込み中心にモックアップを作る人は、生演奏と聴き間違えるくらい説得力あるサウンドを要求されるので、意外と制作に手間がかかるかも知れません。

Lifestyle番組で使用される様な楽曲の一例

https://app.bmgproductionmusic.co.uk/carrier/159751

News and Talk Show

逆に音楽の使用時間が少ない番組も見てみましょう。

レポートによると、MSNBC(90%)、Fox News(88%)、BET(81%)、CNBC(80%)、ABC(77%)となっています。(こちらのパーセンテージは全放送時間に占める音楽が使われていない時間の比率)

日本でも名前を聞く様な、有名放送局ばかりなので気づくかもしれませんが、BET以外はニュースチャンネルです。

ナレーターによる原稿の読み上げやキャスターや専門家による解説など、言語による情報伝達が重要な番組内容なので、音楽の使用時間は少ない様です。

ちなみにここにはありませんが、私の楽曲は主要なニュースチャンネルの一つ、CNNの番組で頻繁に使用されるのですが、CNNはニュースチャンネルとはいえ、ドキュメンタリーやドラマ仕立ての番組が割と多い印象で、音楽使用量が比較的多めなのかも知れません。

4.使用される音楽の種類

Data provided by bmat.com

続いて使用される楽曲の種類についてみてみましょう。

ここでは楽曲の種類を3つに分類しています。

定義は以下になります。

  • Production Music:Production Music Libraryにより提供される楽曲。まさに私たちProduction Music Composerによる楽曲
  • Commercial Music:レコード会社からリリースされている一般のアーティストの楽曲
  • Unclassified Music:上の2つのどちらにも当てはまらない楽曲。

Unclassified Musicに関して、もう少し具体例を出すと

  • 直接依頼を受けて書かれた楽曲
  • 特定のシーンに合わせて書かれたフィルムスコアリング楽曲
  • 放送局が楽曲の全権利を保持している楽曲
  • リサーチの対象に含まれないLibraryから提供されたProduction Music

などが含まれます。

データによると、

  • Unclassified Music(47%)
  • Production Music(46%)
  • Commercial Music(7%)

となっています。

Unclassified Musicは色々、ごちゃ混ぜなので考察から除外するとして、全体の半数近くがProduction Music、アーティストによる楽曲は1割にも満たない事が分かりますね。

私がProduction Musicをブログ等で紹介し始めた頃、

『テレビで楽曲が使われるのなんて、放送局と繋がりのある一部のメジャーアーティストだけで無名のアーティストの楽曲をわざわざ使う物好きな放送局なんてあるわけないだろ!』

とよく言われ、あまり信じてもらえませんでしたが、これこそがProducition Musicにまつわる最も大きな誤解です。

しかしこのレポートこそが真実です。

そしてがProduction Musicが隆盛を極めている理由を明確に示しています。

そもそもアーティストがリリースした楽曲をTVやラジオ映画、ゲーム等のコンテンツ内で使用するには、Performing License、Sync License 、Master Licenseという楽曲に関する3つの許諾を権利者に得る必要があります。(アメリカの場合。使用するコンテンツの種類によって必要なライセンスは異なります)

Performing Licenseに関しては、P.R.O登録楽曲であれば、使用報告書を提出し、P.R.Oの規定額を支払えば済みますが、Sync LicenseとMaster Licenseはアーティスト、音楽出版社、レコード会社など権利保持者に直接交渉しなければならず、手間がかかります。

しかも価格に関しては、権利者側の言い値であることも多く、さまざまな業界慣習や暗黙の了解があったりで、権利者側の出方によっては使用料が高額になりがちです。

タイトなスケジュール、決められた予算で日々、多くの番組制作をする放送事業者にとっては決して利便性が良いとは言えません。

また、新たに番組を制作するたびに、コンポーザー、ミュージシャンを雇いレコーディングスタジオで各シーンに使用する音楽を毎回録音していた時代もありますが、あまりに効率が悪く、コストもかかるので、予算が潤沢な一部のドラマ等を除いてはほとんど行われていません。

そういう背景の元、需要が高まったのがProduction Music Libraryです。

以前ブログにも書きましたが、Production Music Libraryのカタログ内の楽曲は全てPre-Cleared Musicです。

具体的には Production Music LibraryとComposerの契約は楽曲に関する全ての権利を譲り受ける代わりに楽曲使用を促しそこから得られる収益を折半するという内容で、Composerとの契約が済んだ時点で権利に関する懸案事項が何もない事を意味します。

クライアントは楽曲使用に際して、複数の権利保持者の元に走り回って交渉をする必要がなく、Production Music Libraryにのみ許諾を取り、使った分の使用報告書をP.R.Oに提出、支払いをするだけで済みます。License取得の費用もCommercial Musicよりもかなり低く抑えられています。

このように、一箇所との交渉のみで楽曲を利用できるので、Production Musicは別名One Stop Musicと呼ばれ、その様な楽曲を沢山揃えているLibraryは One Stop Boutique Libraryと呼ばれることもあります。

クライアントの需要を満たすことに特化したProduction Music Libraryは業界で広く支持を受けており、今回のレポートの様な結果に繋がっています。

全くの余談ですが、

「Libraryに提出する楽曲で需要が高いのはどんなジャンルですか?」

という質問に対して、私はいつも

「現在、世間で流行っている音楽をProduction Musicのフォーマットに収まるようにカスタマイズした曲」と答えています。

理由は上記のように、クライアントは本来、現在人気のあるCommercial Musicを番組内で使いたいが、手間やコストの関係で断念するケースが多いので、次善の策としてトレンドに沿ったサウンドでProduction Musicとして機能する楽曲こそが、最も現実的で需要を満たす選択肢になり得るということです。

5.各チャンネルで使用される音楽の種類

放送中に使用される音楽の約半数がProduction Musicである事が分かったので、続いて各チャンネル毎で、どのタイプの音楽がどのくらい使われているか見ていきましょう。

これによりProduction Musicをより多く使うチャンネルがわかる筈です。

Data provided by bmat.com

上のグラフで青い線がProduction Musicの割合です。つまり青い線が長いチャンネルほど多くProduction Musicを使用しているという事です。

青い線が長いのは、Outdoor Channel(75%)、Magnolia Network(68%)、ESPN(66%)、Food Network(60%)となっています。

  • Outdoor Channelはその名の通り、キャンプや山登りなどアウトドアに関連する番組を放送しています。
  • Magnolia Networkは家づくりやリノベーション、いわゆるDIY番組を放送するチャンネルになります。こんなマニアックな専門チャンネルがあるのが驚きですよね。
  • Food Networkは料理や食べ物に関する番組を放送しています。
  • ESPNはスポーツ専門チャンネルになります。

こう見ると上の3つはいわゆるLifeStyle番組という括りになります。

Lifestyle番組とスポーツ系番組では、番組内で使われる音楽のうち、Production Musicが大きなウェイトを占めているという事が分かります。

特に、先に示したデータでLifestyle番組は放送時間中の音楽使用量自体も多いという事を思い出してください。

使われる音楽の量が多く、そのうちProduction Musicが占める割合が大きいという事は、このジャンルでは他のジャンルに比べてProduction Musicの需要が高いといえます。

どんな曲を作ったら良いか迷っているなら、これは一つの指針になると思います。

6.TVコマーシャルと番組プロモーション用音楽の使用比率

次は放送中に使用された全音楽のうち、TVコマーシャル、番組プロモーションで使用された音楽と通常の番組内で使用された音楽の比率を比較します。

Data provided by bmat.com

レポートによると、アメリカの場合、全音楽使用時間のうち20%がTVコマーシャル、番組プロモーション内であったという事です。

この比率はアメリカで一番高く、ドイツ(15%)、フランス(10%)、イギリス(8%)となっています。

ちょっとこのデータだけでは断言はできませんが、アメリカの市場をターゲットにするなら、TVコマーシャルに適したジャンルの音楽の需要も高い事が分かります。

TVコマーシャルでよく使われるのが、いわゆるCorporate Musicと呼ばれる、Positive/Upliftingなどというメタタグが付いた、明るく前向きで躍動的な楽曲ですね。

Corporate Musicの一例

https://app.bmgproductionmusic.co.uk/carrier/160156

まとめ

PMAレポートの解説は以上になります。

分かった事をまとめてみましょう

  • テレビの全放送時間のうち約4割でなんらかの音楽が使用されていた
  • 犯罪捜査番組、Lifestyle番組でより多くの音楽が使用されていた
  • Lifestyle番組とスポーツ番組で特にProduction Musicの使用率が高い
  • ニュースやトークショーは音楽の使用比率が低い
  • 使用されている音楽のうち約5割近くがProduction Music
  • コマーシャル音楽(アーティスト楽曲)の使用は全体の6%に過ぎない
  • アメリカでは放送中に使用される音楽の2割がTVコマーシャルや番組プロモーション。アメリカの比率が他の欧米諸国よりも高い

いかがでしたでしょうか?

Production Music自体があまり目立たない裏方的な存在であるため、実際に需要がどの程度あるのか、懐疑的な意見もありますが、このデータを見る限りではTV業界におけるProduction Musicの需要とコマーシャル音楽(アーティスト楽曲)に対する優位性は疑う余地はないかと思います。

また、昨今はAI作曲により市場が失われてしまうという懸念もあるようですが、現時点ではProduction Musicの需要は全く失われていない事が分かって頂けると思います。

未来予測はできませんが、このデータをどのように解釈するかは読者にお任せします。

私自身は、このレポートをポジティブに受け止めてよりProduction Musicに注力する事を決めたところです。