Library契約後から著作権使用料の分配を受け取るまでの流れ
- 2023.01.27
- Production Musicビジネス徹底解説
- BGM, DTM, Production Music, テレビ 作曲家, 作曲家, 著作権, 音楽, 音楽ビジネス, 音楽出版社
これまでの記事でProduction Musicとは?
という所から始まって、業界の仕組み、取り組み方、権利関係など参入に必要な事柄を順番に解説してきました。
*ブログよりもさらに突っ込んだ内容と30日以内でのLibraryと契約を目指して、
ステップバイステップで取り組む”30day Challenge”を掲載した
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既に多くの方に購入して頂いて契約を勝ち取っておられます。
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今回の記事では無事、契約が取れた後の事について解説をしていきたいと思います。
契約から分配受け取りまで
長く険しい道のり
ブログやTwitterで、私が繰り返しお伝えしている言葉が、
- Production Musicはマラソン。短距離走じゃない。
- 作った曲が大当たり。一夜にして大金持ちは絶対に起こらない。
- 成果が出るまでとにかく時間がかかる。必要なのは音楽への情熱と忍耐
です。
こうして並べてみると息が詰まりそうなほど苦しそうな印象ですね(笑)
しかし、これが事実です。
Production Musicでは収益を得るまでに年単位で待つ事が必要で、待っている間も、休む事なく曲を作り契約を重ねなければ安定した収入は見込めません。
これだけキビシイ事ばかり書いているにも関わらず、ブログを読んで多くの方が海外Production Musicに参入すべく挑戦してくれています。
キビシイついでにお伝えしておくと冒頭で紹介した有料記事を購入してくれた方のうち、一つでもLibraryとの契約が取れたという連絡をくれた方は購入者全体の8% 位です。
契約が取れても連絡をくれない方もいるでしょうが、多く見積もっても10〜15%くらいだと思います。
世に多くあるストックミュージックサイトの場合、よほど酷い曲や音割れなど品質の問題がなければ大体、アクセプトしてもらえますが、Production Musicの場合はLibraryが1曲ずつ聴いていき、厳しくチェックして、彼らが本気で売り込みたいと思う曲以外は契約しないので、はっきり言ってハードルは高いです。
アマチュアでも参入できるようなストックミュージックとは違い、明らかに音楽のプロフェッショナルとしてのクオリティを求められる世界です。その上でLibraryの求めているジャンルや方向性に合致している必要もあるので殊更、最初の契約を取るのは苦労と思います。
多くの人がこの段階で脱落してしまいますが、それを乗り越えた先には良い点もたくさんあります。
狭き門を潜って契約された曲はただカタログに置いておいて発見されるのを待つだけでなく、Libraryのスタッフがクライアントに積極的に売り込み、プレイスメントが取れる様に働きかけてくれます。
逆の言い方をすると、その価値を感じた曲しか契約しません。
(ただし、契約=プレイスメント獲得では無いので、悪しからず)
また、一度契約を交わしたコンポーザーはLibraryにとって、実力を認め、煩雑な契約条件を了承済みで各種手続きも済んだ”取引先”に変わるので、それ以降の追加契約が飛躍的に取りやすくなります。
つまり”Inner Circle”に入れたという事です。
こうしてLibraryとの契約を重ね、信頼と実績を重ねていく事がProduction Musicの成功の鍵だと私は考えています。
契約後の流れ
狭き門を潜り抜けて契約まで漕ぎ着けた皆さん。おめでとうございます。
Production Music Composerとしての道を一歩踏み出しました。
しかし、ここからが本当に長い。
長いというのはずっと書いてきているので具体的にどう長いのか説明していきます。
無事、契約書にサインして曲がアクセプトされた後、あなたがすべき事は…..
なにもありません😢
ひたすら待つのみです。
ただぼーっと待っていても仕方がないので次の曲を書き次の契約を目指しましょう。
Production Music Composerはひたすらその繰り返しですよ。
一方であなたが待っている間、Library、クライアント、P.R.Oは様々に活動しています。
まずはプロセスの流れを把握しましょう。
- Libraryのカタログに楽曲が掲載される
- P.R.Oのデータベースに楽曲が登録される
- クライアントが楽曲を使用し、使用報告書(Cue Sheet)をP.R.Oに提出
- P.R.OがCue Sheetを元に分配額を算出して3ヶ月ごとの支払いであなたに支払われる
詳しく見ていきましょう。
1.Libraryのカタログに楽曲掲載
契約成立後、Libraryは楽曲を自社ウェブサイト上のカタログに掲載します。
現在ではSource Audioという専用のプラットフォームを使っているLibraryが多く、共通の機能とデザインになっています。
楽曲名、作曲家名、パブリッシャー、メタタグ、P.R.O情報などをまとめて確認し、楽曲使用のリクエストを送る事ができます。
登録の仕方、タイミングはLibraryによって異なり、同ジャンルの楽曲をまとめてアルバム化するところ、契約された順番に1曲づつ登録していくところ、プレイスメントが取れた曲のみ登録していくところなど様々。
所要時間としては最短で契約後2、3ヶ月。平均では半年から1年くらいが目安です。
2.P.R.Oデータベース登録
次に楽曲をP.R.Oのデータベースに登録していきます。内容としてはSouce Audioのメタタグ情報を除いた情報が登録されます。
これが済むとその楽曲はP.R.Oの徴収対象になり、プレイスメント獲得後のロイヤリティを受け取る準備が整った事になります。
登録自体はLibraryが行うので作曲家がする必要はありません。
ほとんどのP.R.Oでデータベースを公開しているので、たまにアクセスして、ちゃんと登録されているか確認するぐらいで良いでしょう。
登録のタイミングはLibraryのカタログ掲載後すぐに行われるケース、年に一度など決まったタイミングでまとめて登録されるケース、プレイスメントを獲得した曲のみ登録するケースなど様々です。
3.クライアントが楽曲を使用し、使用報告書(Cue Sheet)をP.R.Oに提出
Production Musicでは作曲家がクライアントと直接、やり取りをする事はありません。というかほとんどの場合、Libraryとの契約でクライアントに連絡を取る事を禁じていると思います。
なのでこれに関しては、なにも関与できません。自分の楽曲いつどこで使われてるのかは、P.R.Oからの使用明細を受け取るまで基本的に確認できないのですが、TunesatというWebサービスを利用する事で、一応は情報を得る事ができます。
Tunesatに関してはこちらの記事で詳しく解説しています↓↓↓
4.P.R.OがCue Sheetを元に分配額を算出して、4半期ごとの支払いであなたに支払う
ついに報酬を得る事ができます。プレイスメントされてクライアントがCue Sheetを提出後、大体9ヶ月後が分配のタイミングですが、P.R.Oの分配は3ヶ月に一度なのでCue Sheet提出のタイミングによってはさらに1、2ヶ月追加で待たされる事もあります。
なのでざっくり楽曲使用の1年後と思っていれば間違いないでしょう。
契約の流れ(補足事項)
上記の4つは基本的に時系列順に書きましたが、順番が入れ替わる事も往々にしてあります。
Libraryカタログ掲載、P.R.Oデータベースの所で少しだけ触れましたが、プレイスメントされた楽曲のみ掲載する方針のLibraryがあると言う事は、これらの登録作業が行われる前に楽曲が使用される可能性があると言う事です。
Libraryのカタログ掲載
是非、皆さんに知っておいて欲しいのですが、LibraryはWebサイト上のカタログからのみプレイスメントを得ている訳ではありません。
Libraryによりますが、むしろ多くのLibrary、が業界に独自のネットワークを持ち、契約楽曲を持参しクライアントにアプローチしてプレイスメントを獲得しています。
余談ですが、某Production Music Libraryのスタッフ曰く、 プレイスメントの8割近くはオンライン上のカタログからでは無く直接、Music Supervisroに営業をかけた成果らしいです。
そもそもProduction Music Libraryを立ち上げる動機として、オーナーが既に業界にコネクションがあり、曲を売り込む先を持っている上で曲を集め始めるケースがほとんどなので、むしろカタログ掲載だけして、ただクライアントに発見されるのを待つ様なスタンスのLibraryとは契約しない方が良いかもしれませんね。
稀にあるのが審査の基準が低く、片っ端から曲を契約していき、カタログには掲載するが、すべての楽曲の利用開発をできるほどの営業力を持っておらず、多くの曲がカタログ内で塩漬けになっているLibrary。
こういう所と契約してしまうと、権利だけ取られて見返りが全然得られないので注意が必要です。
これを外から見抜くのはなかなか難しいので契約してしばらくしても、全然プレイスメントを取れないLibraryには見切りをつけて、その後の契約をしない位しか対処方法がないのが残念な所です。
事前のリサーチは入念にしましょう。
話を戻すと、Libraryのカタログ掲載を確認する事は、進捗を知る上での大事ですが、カタログ掲載がなくともプレイスメントを獲得する事は可能なのであまり神経質になる必要はありません。
契約後、1年半以上経っても音沙汰がない場合に、ちょっとキャッチアップのメールで確認を取るくらいの気持ちで大丈夫です。
P.R.Oのデータベース登録
P.R.Oデータベース登録に関しても、プレイスメント後に登録するLibraryもあると書きましたが、それでは徴収しそびれてしまうのでは?
と心配する人もいるかもしれません。しかし、これも問題ありません。
なぜならCuesheet提出時に楽曲がデータベースになくても、Cuesheetには楽曲の著作者、パブリッシャー、P.R.O情報が記載されています。
Libraryが楽曲を提供するときに一緒に渡すからです。
そしてP.R.Oは分配対象の楽曲がその時点でデータベースにない場合でも、その後登録された時に最大で3年から5年分、遡って分配してくれる仕組みになっているので、通常は問題ありません。
登録にあまり神経質になる必要はない
契約後、楽曲がどうなっているかを知る術がなく、プレイスメントを得た事を知るのもP.R.Oの著作権使用料分配を受け取った時という感じで、年単位で待たされる事が多いProduction Musicビジネスにあって、カタログ掲載やデータベース登録は目に見えて進捗を感じられるので、とても気にされる方も多いと思いますが、これ自体は実際に収益を得られるかどうかには直結しないし、手続きが遅れてもあまり実害はないので、あまり神経質にならず、鷹揚に構えて、それよりも新たな曲作りに集中する事をお勧めします。
ただし、1年半を超えて何の動きも見られない場合は、Libraryがちゃんと運営されているのか、楽曲が忘れられているのでは?といった懸念も出てきますので、一度メールで問い合わせてみても良いと思います。
実際、どのくらい時間がかかるのか
契約成立後、具体的にどの位、待つ必要があるのか大体の目安を示したいと思います。
契約書にサインしてLibraryに送った日をDay 0として、プロセス自体は上記の通りに進んだとします。
カタログに掲載されるまで大体、半年。それ以前の直接営業によるプレイスメントは無いものとする。
P.R.Oデータベース登録まで大体、9ヶ月。
これと同時に最初のプレイスメントを獲得したとする。
プレイスメント内容は、とあるリアリティーショーのepisode 1。
多くのクライアントが1 season終了毎にまとめてCue Sheetを提出するので 1 season大体、3ヶ月と仮定してCue SheetがP.R.Oに提出されるのが、契約成立後、ちょうど1年後。
Cue Sheet提出後、分配まで9ヶ月。
しかし提出時期がちょうど4半期の分配の谷の時期だったため、プラス2ヶ月されて1年11ヶ月。
およそ2年弱で初めての報酬を受け取れる事になる。
もし、あなた海外P.R.O(プレイスメントがアメリカで発生したとして、あなたのP.R.OがASCAP,BMI以外)と契約している場合、海外に送金する手続きの関係でさらにプラス3ヶ月から1年。
最大で3年近く待つ事もあり得る。
Production Musicの時間の流れはこんな感じ。
気が遠くなるでしょ?
ただ、これは最大限長く見積もった場合で、実際には前述の通り、カタログ掲載前に契約後すぐにプレイスメントが取れて、Cue Sheetも使用直後に提出、分配のタイミングもバッチリであれば1年以内に報酬を受け取れる可能性も十分にあります。
正直な所、関わるLibrary、P.R.O、クライアントの行動次第で大きく変動するので、なかなか明確には言えない。
なので最も長い見通しでいる方が、無駄にヤキモキしないで済むというのは個人的な捉え方。
とりあえず、これだけの情報社会の中で、これほどゆっくり物事が進むのには驚きも感じるが、現状はこんな感じなので受け入れて慣れるしか無い。
一部にはブロックチェーン技術を駆使して、このプロセスを透明化、高速化しようという動きがある様なので近々、改善されていくかもしれない。
しかし、これから参入する人に関してはこのタイムスパンを覚悟してから臨んで欲しいと思います。
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