私のProduction Music Library提出遍歴

私のProduction Music Library提出遍歴

 今回は、ここ数年に絞って、私がどの様に楽曲をLibraryに提出して、どの様な結果になったかを可能な限り具体的な事例を出して紹介しようと思います。

この記事を書こうと思った理由

 それはブログやTwitterで、もう耳にタコなくらいしつこく言ってきた事が、案外伝わっていないんだと気づいたからです。

 2023年の5月末に長らく販売していた”Production Musicビジネススタートアップガイド”というnoteの有料記事の販売を一時停止しました。

 理由はAI関連の事柄で数年後の業界の様子が激変する可能性が出てきたからです。

 数年後のことなら、とりあえず販売を続ければ良いだろうという意見も頂きましたが、Production Musicビジネスに参入する方に口を酸っぱくして言っている、

”短期間で成果が得られるものではない、最低でも数年かかる”

という言葉との整合性が取れなくなってしまうと感じたので販売停止に踏み切りました。

この時点までに本当に多くの方に記事を購入して頂きました。

 このタイミングで記事購入者の方で挑戦したけど、契約に至れなかった方、数名とDMのやり取りをして提出した楽曲を聴かせてもらったりLibraryとのやりとりの様子をヒアリングしてお悩み相談みたいな事をさせて頂きました。

 この数名に関していえば楽曲はどれも素晴らしく、サウンドのクオリティも十分で、楽曲自体に問題がある方はいませんでした。Production Musicのフォーマットとしてみた時に若干の手直しが必要なケースはあったものの、楽曲の質でリジェクトされたとは思えない作品ばかりでした。

 しかし、詳しく話を聞いていくとLibrary5社に送って返事がなかったとか、多い方でも20社くらい送って心が折れてしまったという人が殆どでした。

 ちなみに今回、DMをくれた方は皆さん多かれ少なかれ国内でプロとして音楽で収入を得ている方達で、楽曲のクオリティはLibraryのカタログの曲と比較しても遜色ありませんでした。

 だからこそ、自分の楽曲が20社にリジェクトされるというのは想定外だったのかもしれません。もしかしたら著しく自尊心を傷つけられたかもしれません。

私が、強調したかったのはこの部分です。

 そもそも新規Libraryを開拓する時に送り先が20社というのは全くもって少なすぎます。

 度々、書いていますが私が最初の契約を取るまでに送ったLibraryは40社を軽く超えていますし、もうすぐキャリア10年になろうとしている現在でも毎年たくさんの新規Libraryに楽曲を送ってはリジェクトされたり返信がなかったりというのを続けています。

 Production Musicビジネスにおいてリジェクトは日常の一部です。その都度、心を乱されていては身が持ちません。

 契約済みのLibraryとのやり取りはまた状況が違いますが、新規に関しては、もうリジェクトされて当然、ちょっとでも反応があればラッキーくらいに思っているのがちょうど良いと思います。

過去にも同様の主旨の発言は繰り返ししてきましたが、いくら強調しても足りない様なので、今回、私の提出遍歴を公開する事で実態を感じてもらおうと思った次第です。

 ここまで聞いたら誰がこんなにしんどいことに挑戦するんだよ!?と思ったかもしれませんが、データを見てもらえたら希望もあることが分かって頂けると思います。

私のProduction Music Libraryへの提出遍歴

量があまりに膨大なので、とりあえず2021年から2023年6月までの分をまとめました。

 日付とどのLibraryにどの様なやり取りがあったかを列挙します。

*やりとりの時点で、契約を一度結んでいるLibraryに関してはLibraryA, LibraryBの様に表記します。

一方で、新規で初めて楽曲を送るLibraryに関しては番号で、L1,L2の様に表記します。

各提出ごとのやり取りを連結させてまとめているので、日付が時々、前後します。

2021年

1月7日 Library A に担当者に直接提出 10曲

1月8日 返信あり。10曲アクセプト 

1月13日 全曲契約成立


2月16日 Library B 担当者に直接提出 10曲

2月16日 担当者退職のためメールが戻ってきてしまう。

2月16日 WebsiteのSubmission Formに再提出 10曲

3月10日  返信がないためフォローアップのメールを送る。

3月11日  返信がありレビュー中とのこと

4月12日  再び連絡がないので再度、フォローアップ

4月13日  返信があったが実は曲を聴いていなかった事が発覚

      話が噛み合わない。

      リンク切れなので送り直してくれとのこと

4月14日         リンクを送り直す

5月15日           一ヶ月返信無し。契約の意思無しと判断し見切りをつける。悲しい。


3月19日 Library C 担当者に直接提出 10曲

3月20日 返信あり とりあえずファイルを受け取ったとのこと

4月20日 送ったうちの1曲が再生できないので修正依頼

4月23 日 修正版を送信

4月24日      返信ありファイルの受け取り確認

9月24日 忙しくてフォローアップしなかったが、忘れた頃に契約成立の知らせ。


5月3日  LibraryC 担当者に直接提出 10曲

5月4日  返信あり ファイル受け取り確認

7/月10日  契約成立


5月13日   LibraryA   担当者に直接提出 10曲

7月25日  契約成立


5月14日  LibraryC 担当者に直接提出 12曲

5月15日  返信あり ファイル受け取り確認

11月12日  契約成立


6月14日 Library C 担当者に直接提出 10曲

6月15日 返信 ファイル受け取り確認

11月12日 契約成立


7月1日 Library B担当者に直接提出. 10曲

    返信なし


7月2日 Library C  担当者に直接提出 10曲

7月3日 返信あり ファイル受け取り確認

2022年5月20日  契約成立


8月18日 Library B 担当者に直接提出 10曲

    返信なし


9月30日 LibraryC 担当者に直接提出 10曲

10月1日   返信あり ファイル受け取り

2022年8月19日 契約成立


10月18日  Library C カスタムワーク(コンペ形式) 3曲提出

10月19日  返信 ファイル受け取り確認

2022年8月19日  契約成立(コンペには勝てず。普通にカタログ掲載)


10月22日  L1 Submission Formに提出 10曲

      返信無し


11月11日       L2, L3, L4 Submission Formに提出 10曲

     返信無し


12月1日    L5, L6, L7, L8, L9 Submission Formに提出  10曲

     返信無し


12月10日  Library B 担当者に直接 提出 10曲

2022年3月15日 返信がないためフォローアップ

3月16日  返信あり 多忙のため、対応を待ってほしいとのこと。

12月2日    フォローアップ2回目 - 返信なし。見切りをつける。


2022年

1月9日 L10, Submission Formに提出 20曲

3月10日    返信あり 契約したい旨を伝えられる。快諾。

7月16日 音沙汰ないのでフォローアップのメールを書く

7月17日 返信あり Libraryの体制変更を伝えられ、新規Library立ち上げに伴い、そちらに曲を登録したいと伝えられる。快諾。

9月10日   先方の計画が頓挫。契約の話もお流れに😭


4月15日  LibraryA 担当者に直接提出 10曲

4月16日 返信あり アクセプト

5月6日  契約成立


5月26日 Library A 担当者に直接提出 10曲

5月27日 返信あり アクセプト

5月28日 契約成立


6月8日  Library C 担当者に直接提出 10曲

6月9日 返信あり ファイル受け取り確認

10月18日 契約成立


7月30日  Library B 既存契約作家専用Submission Formに提出 10曲

返信なし


9月2日  LibraryC 担当者に直接提出 10曲

9月7日  返信あり ファイル受け取り確認

2023年4月25日 契約成立


9月14日  LibraryA 担当者に直接提出 10曲

9月16日  返信 アクセプト

9月17日  契約成立


12月13日 L11  Submission Formに提出 42 曲

12月15日  返信ありReject


12月20日 L12  Submission Formに提出 42 曲

12月22日  返信ありReject


2023年

1月24日 L13, L14, L15, L16  Submission Formに提出 40曲

返信無し


2月20日 Library C 担当者に直接提出 12曲

2月22日 返信あり ファイル受け取り確認


2月20日  Library A 担当者に直接提出  28曲

3月6日  返信がないためフォローアップメールを書く。

3月7日  返信が来たが、他のライターと取り違えられて話が食い違う

3月8日        バックアップHDDが壊れてSub-Mix作成が困難に。Full Mixだけでもアクセプトしてもらえるか確認

返信無し


4月18日  L17, L18 Submission Formに提出 10曲

返信無し


4月18日   Library B 既存契約作家専用Submission Formに提出 10曲

4月25日  返信あり リテイク依頼の後に契約したい旨伝えられる。

5月1日       リテイクを提出

5月31日  返信が無いため、フォローアップメールを送る。

6月6日  返信あり 契約成立   


5日31日   L19, L20, L21, L22, L23, L24 提出 Submission Formに提出 10曲

6月10日現在 返信無し


データ

総提出回数 46回

契約成立数 15回

総契約曲数 145曲

契約書待ち 1回

リジェクト30回


契約済みLibrary

総提出回数 22回

契約成立数 15回

勝率68%


新規Library

総提出回数  24回

契約成立     0回

勝率 0%


考察

これほど分かりやすい状態だったのは自分としても意外でしたが、データを基に考察していきます。

新規Library VS 契約済みLibrary

今までの投稿で、Production Musicビジネスで一番難しいのが新規Libraryの開拓だと強調してきました。

 まさにその言葉通りで、この3年間で24社の新規Libraryにアプローチしてきましたが、契約成立はゼロ。一個だけ契約寸前まで行ったものの先方の都合で破談に。

 つまり、もし私がこのビジネスの新規参入者だったとしたら一つも契約が取れずにこの3年間、全く先に進めていない事になります。

 幸いにも私は、既存の契約Libraryがいくつかあり、新規LibraryでRejectされた曲も、そちら回す事で、順調に契約を伸ばすことができていますが、そういう取引先が無い新規参入者にとっては、提出回数が24回というのは全然、足らないという事が分かりますね。

 10年近い経験があり、提出の仕方や業界の作法をある程度わきまえた私でさえこうなのだから、参入者はこの何倍もトライアンドエラーを繰り返す必要があります。

なぜ、こうなってしまうかといえば、信頼感と相性の問題なのだと思います。

 やはりLibrary側にとっても新しい作曲家と取引を開始するのにはそれなりのリスクとコストがあり、同じ実力なら、すでに契約して実績のある作家を使おうと考えるのは自然な事です。

 また、Libraryにはそれぞれ得意な分野や需要が高いジャンルの曲があり、それにフィットする作曲家を常に求めています。

 Webサイトに明確にそれを書いてくれれば良いのですが、表向きは全ジャンル対応を打ち出したい思惑もあって、しばらく取引してみないと実態が見えて来ないのがツラいところです。

 私としても、プレイスメント情報などからLibraryの需要を分析できるように、様々な事例を紹介してきましたが、やはり内部情報は分かりませんし、厄介な事に業界のトレンドによって、その内容も少しづつ変化していくので、提出するタイミングの影響も受けます。

 自分の楽曲の傾向とLibraryの需要がマッチしたところにピンポイントにアプローチする事は難しく、やはり数多くの失敗を繰り返す中で、運命のLibraryと巡り合う事が重要です。

 こう書くと、片っ端から当てずっぽうに曲をバラマキたくなりますが、基本はしっかり事前リサーチをした上で厳選して楽曲を送っていくことが大切です。

既存契約Libraryについて

 新規開拓の大変さは上記の通りですが、データを見てもらったら分かる様に、既契約Libraryでは全く話は違います。

 この3年間で22回、契約済のLibraryに楽曲を送っていますが、契約成立回数は15回。勝率にして68%。

しかも、ほとんどの場合で1週間以内に契約の可否に関わらず、なんらかの返信を貰えています。

 新規契約の難しさを強調しましたが、Libraryが絶えず新しい楽曲を必要としているのもまた、事実です。

 そして契約済みの作家に関しては、すでに実績があり、業界の仕組みや契約の条件なども理解した上で、ビジネス上のコミュニケーションも取りやすい事が分かっているので、Libraryとしてはこちらと取引をする方が容易だと考えるのは自然な流れです。

 全てのLibraryがこの様に既存の契約済作曲家を優遇する訳ではありませんが、その傾向は明確にあると思います。

なので新規参入者はまずこの立場を目指す必要があります。

 それには楽曲のクオリティ、需要の伴った独自性と適切なビジネスマナーを備えた上で、多くのLibraryにアプローチして良いLibraryに出会う必要があります。

既存契約Libraryの比較

次に既契約Library3社の比較をしてみましょう。

まずはこちらがデータです。

Library A 6回提出 4回契約成立

Library B 6回提出 1回契約成立

Library C 10回提出 10回契約成立(最新の提出は契約手続き中)

まず目につくのはB社の厳しさとC社の緩さですよね。

B社に関しては、数年前まで、私のメインの取引先でした。もう7年以上の付き合いになります。

 以前は契約も取りやすく、送った楽曲はほぼ契約成立していたし、担当者とも個人的に仲が良く、メールですが、業務外の雑談をしたりする程でした。

 そしてプレイスメント実績も非常に優秀で、私がProduction Musicを本業としてやっていけるなと思えたのもB社と取引が出来たからです。

 しかし、コロナ禍にこの担当者が退職してしまい、提出の仕組み自体も合理化のため、Submission Formからの提出になった途端、全然、契約が取れなくなってしまいました。

 一応、新規作曲家と既存作曲家で別のFormからの提出ではあったので、多少の優遇はあるのでしょうが、それでもかなり厳しく、この3年で契約が取れたのは直近の1回のみで、それもリテイクや連絡途絶を繰り返した末、何度もフォローアップしてようやく契約に至っています。

 一方で、契約を取るのが難しくなった今も、過去に契約した楽曲たちがずっと良質な大型プレイスメントを取り続けていて、プレイスメントの実績は良好なままなので、困難を承知でこのLibraryに曲を潜り込ませたいと今でも考えている次第です。

 LibraryCに関しては最後の救済措置といった感じです。こちらもProduction Musicを始めた頃からの付き合いがあるLibraryで、契約曲数としては一番多いです。

 ここの特徴はなんといってもその”緩さ”です。今まで非常に多くの楽曲を送ってきましたが、リジェクトされた記憶というのが、ファイルの不備以外で無いくらいです。

 そして返信が早い。ほぼ提出3日以内に返信があり、そこでは明確に契約だと伝えられませんが、数ヶ月後にSchedule Aが送られてきて契約成立という流れです。

 そして、カタログ登録やP.R.Oのデータベース登録なども迅速で正確なので、事務的なトラブルを抱えた事がありません。

 こんなに契約が簡単だと楽曲が増えすぎて飽和してしまうのではと心配しますが、Library全体では、それほど爆増していないので、新規作曲家との契約にはそれなりのハードルを設けて入口を絞っているものと思われます。

 こんなに素晴らしいLibraryなら全部、ここに送れば良いのでは?と思うかもしれませんが、一つだけ、大きな問題があります。

このLibraryで得られるプレイスメントの単価がすごく安いのです。

 おそらくネットTVや新興メディアとの付き合いが深く、大量に楽曲が必要なのだと思います。

実際、このLibraryを通してのNetflix、Huluなどのプレイスメントはものすごく多いです。

 しかし、そこから得られる著作権使用料は従来のTV番組とは比較にならないくらい安く、全体のプレイスメント数でいうと、このLibrary経由が約半数を占めますが、収益は全体の15%にも届きません。

 なのでこのLibrary Cに送る楽曲というのはLibrary A、Library Bにリジェクトされて、新規Libraryに送る手間も取れない、行き場を無くした曲達をハードディスクの肥やしにするよりはマシと思って送っている事が多いです。

 まあ、それでもちゃんと利用開発をしてくれますし、安いといってもRoyalty Free Musicとは違い、再放送での使用料を繰り返し受け取れるので、大事な収入源としては考えられるレベルとだけは言っておきたいと思います。

Library AはLibrary BとCの中間くらいで、現在、実質メインの取引先です。EU諸国でのプレイスメントが多く、再放送が多いニュース系プログラムでよく使われるので安定した収益が期待できます。

かなり小規模でCEOと直接やり取りをする事が多く、たまに連絡が取りにくいのが珠に傷ですが、小規模Libraryでは良くある事なのであまり気にしません。

まとめ

如何だったでしょうか?

 私自身、過去のLibrary提出履歴をじっくり調べるのは初めてだったので、色々と新しい気づきがありました。

やはり明らかになったのは、新規契約の難しさとProduction Musicビジネスを行う事の地道さでは無いかと思います。

 どうしてもProduction Musicの実態を伝えると、大変さ、地道さを強調してしまいがちですが、既存契約Libraryのデータからも分かる様に、最初の関門を突破して長く続ける事で、ある程度安定した収益になっていくので音楽制作が大好きで、覚悟をもって挑戦するのならオススメです。

 AI作曲の影響で数年後に不透明感は残りますが、それはProduction Musicに限らない様々な分野に共通している事だと思います。現時点(2023年6月)ではAIによる影響は感じられません。