DTM作曲家がオーケストラレコーディングで怒られがちな事10選
Xに以下の様な投稿をしたところ大変反響がありましたので少しだけ深掘りしてブログ記事にすることにしました。
現在では、マシンパワーが十分なパソコン、高品質なオーケストラ音源、その他周辺機器などが非常に低価格に手に入るので誰でも気軽にオーケストラの作曲に挑戦することができます。
プロの作品やメディアに流れる音源でも、実際のオーケストラをレコーディングせずにDTMで完結されているものが多くあります。
とはいえ、やはり生のオーケストラをレコーディングした時の迫力は圧倒的で、DTMでは再現しきれない部分があることも事実です。
DTMerの中には幸運にも生のオーケストラのレコーディングする機会を得る人もいるでしょう。その時、DTMだけでオーケストラ曲を書いてきた人がやりがちなミスをリストアップしたのが上の投稿です。
実際の楽器では不可能なフレーズでも鳴らす事ができるのはDTMの良いところの一つですが、実際の楽器奏者には楽器ごと、奏者ごとに物理的な制約を伴います。
これを無視して曲を書いた場合、当然のことながら演奏することができず楽曲は崩壊、さらには作曲家としてのあなたの評判も地に落ちることになります。
20年以上作曲をしている私でさえ、レコーディングの前日は本当にこの譜面で大丈夫だろうか?当日、ミスが発覚して演奏者や指揮者から白い目で見られたり、これ見よがしにため息をつかれるのではないか?とナーバスになります。
(映画音楽とかの分野で活躍されている方は、慣れていて大丈夫なのかも知れませんが、私はオーケストラのレコーディングの機会自体があまり多くないので毎回、緊張します。)
なので、ゆくゆくはオーケストラのレコーディングをしたいと考えているDTMerは、管弦楽法と記譜の勉強もしっかりしておく事が大事です。
暴論ですが逆を言えば、自分は絶対に打ち込み以外やらないと腹を括ってしまえるのならば、仕上がりの音さえよければ、何をしようが自由なので、どんどん無茶苦茶な楽器の使い方をしてクリエイティビティを拡張するというのも一つのやり方と言えるかも知れません。
ここで挙げた10の例は非常にありがちなミスなので。それぞれ少しだけ深掘りして解説してみましょう。
1. ストリングスに無茶なダブルストップ、トリプルストップを要求しまくる
- ダブルストップとは、弦楽器で2つの異なる音を同時に弾く技法です。トリプルストップはさらに難しく、3つの音を同時に弾きます。これらの技法は物理的に弾ける組み合わせが限られており、無理な要求は演奏者に大きな負担をかけ、あなたが弦楽器を理解していないという事を露呈させることになります。
- そもそもダブルストップ自体が、どちらかと言えばソロ演奏向けのテクニックと言えるので、アンサンブルで演奏する際は、ディビジでセクションを分けて和音を演奏する方が合理的です。ディビジの分け方はセクションのサイズにも拠り色々考え方があります。
2. チェロにハイパッセージをずっと弾かせる
- チェロは低音域の表現が得意な楽器ですが、高音域(ハイパッセージ)も演奏可能です。しかし、高音域での連続した速いパッセージは非常に演奏が難しく、長時間の演奏は奏者に過度なストレスを与えます。
- Youtubeなどにソロイスト系のチェリストが非常に高い音域でアグレッシブに演奏する動画が結構ありますが、誰でもできるわけでもなく、またチェロが本来持っている楽器らしさからは外れている物も多いので、過度なハイパッセージはお勧めできません。
- アンサンブルではヴィオラやヴァイオリン、もしくは他のWoodwindなどにフレーズを受け渡しましょう。
- 文脈によりますが、受け渡す時にフレーズの一部をオーバーラップするとシームレスに次の楽器に受け渡せるという技術もあります。全てのケースでハマる訳ではありませんが。。
3. コントラバスに速いスピッカートを弾かせる
- コントラバスは最も低い音域を持つ弦楽器で、通常はリズムや基礎を支える役割を果たします。速いスピッカート(弦をはじく演奏技法)は、その大きな体と弦の長さのために難易度が高く、特に速いテンポでの連続演奏は困難です。
4. 吹奏楽器奏者に息継ぎさせない
- 吹奏楽器の演奏には、適切なタイミングでの息継ぎが必要です。長いフレーズを息継ぎなしで要求すると顔が真っ赤になります。そして怒ります。
特にオーボエ奏者には要注意です。スタジオの帰り道に背後から襲われても文句は言えません。
(嘘です。でもオーボエは息の圧力の調整が難しい難易度の高い楽器ですので、特に気を使う必要があります。)
5. フルートに低域でフォルテシモを要求
- フルートは高音域での明るく力強い音が特徴ですが、低音域では音量を大きくすることが困難です。低域でのフォルテシモは、フルートの特性に合わない要求と言えます。
6. クラリネットのブリッジ音域での速いパッセージを吹かせる
- クラリネットのブリッジ音域(G4〜Bb4)は、音色が不安定になりやすく、特に速いパッセージを吹くことは技術的に難しいので避けた方が賢明です。
7. トランペットにハイノートでピアニッシモ要求
- トランペットは高音域での演奏が可能ですが、高い音を出しながら音量を非常に小さく保つ(ピアニッシモ)ことは非常に難しい技術を要します。
8. トロンボーンにスライドの移動が非常に忙しいパッセージを吹かせる
- トロンボーンはスライドを使って音高を変える楽器です。スライドの移動が非常に忙しいパッセージは、正確な音高を維持しながら演奏することを困難にします。
9. ティンパニの音程の指定が多すぎる、もしくは音程をまったく意識して書いていない
- ティンパニは太鼓の一種と認識されがちですが、れっきとした音程楽器で決まったピッチがあり、音程をしっかり意識して書かないと曲のキーや和音から外れて大惨事になります。
- ティンパニはチューニングで音程を変えることができますが、演奏中に多くの異なる音程への迅速な変更する事は現実的ではありません。
- 同時にいくつものピッチを鳴らすには複数のティンパニを用意する必要がありますが、どんなに多くても5個なので、曲中で使える音程が限られます。
- ティンパニにクロマチックなフレーズを要求するべきではありません。
10. ハープにピアノみたいな臨時記号盛り盛りの譜面を書く
- ハープは足元のペダルを使って音程を変更しますが、ピアノのように多くの臨時記号が含まれる楽譜は演奏が非常に難しくなります。
- 優れた奏者は演奏しながらどんどんペダルを踏みかえる素晴らしい技術を持っていますが、ピアノほどのアジリティを持っている訳ではありません。
- またハープはピアノと違い、弦から手を離しても音が止まりません。音を止めるためには弾いた弦を手で抑えミュートする必要があり、細かいスタッカートフレーズなどを演奏する事には向いていません。
- ハープのための楽譜は、その特性を理解して書く必要があります。
これらの間違いは、実際の楽器の演奏可能性や奏者の身体的、技術的限界を理解することで避けることができます。DTMでの作曲経験が豊富な方でも、実際の楽器の特性を学び、演奏者の視点を考慮することが重要です。
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