海外の著作権管理団体に加入するメリットとデメリット

海外の著作権管理団体に加入するメリットとデメリット

音楽家と著作権管理団体

著作権管理団体(P.R.O)

 このブログで解説しているProduction Musicビジネスをはじめ、音楽制作を生業にする人にとって著作権管理団体の存在は大変重要です。英語では”Performing Rights Organization“といい、著作権のなかでも特に演奏権に関する使用を監視し、使用料を徴収、分配します。

著作権管理団体に関してはこちらも参考にしてください↓↓

演奏権(Performing Rights)

 演奏権とは、ざっくりいうと楽曲を公に演奏、伝達する権利です。何もしない状態では作曲者が全権利を保持します。何人も作曲者の許可なく楽曲を公の場で演奏したり公開する事は出来ません。

 作曲家が楽曲から収益を得たいと考えた場合、そのままでは誰も楽曲を使用する事が出来ず、著作権使用料を得られないので使用許諾を与えます。

 作曲家自身が個別に許諾する事も可能ですが非常に手間がかかり、自分がリーチできる範囲の人にしかアプローチできず、使用者の利便性も悪いため、音楽出版社に使用許諾を与える権利を譲渡して、放送事業者やレコード会社など潜在的な楽曲利用者が簡単に利用できる様にするのが音楽著作権ビジネスの根幹です。

 楽曲利用によって発生する著作権使用料は、著作者(作曲家)と音楽出版社にそれぞれ分配されます。

海外の著作権管理団体

 どの楽曲が、どこで、どのくらい、どの様な形で使用されたかを監視、調査して使用料を徴収し権利者に分配するのが”著作権管理団体”の役割です。

 日本の音楽の著作権管理団体では”JASRAC”が有名ですね。著作権法が整備されている国には必ず1つもしくは複数の音楽著作権管理団体が存在します。

  • 日本→JASRAC
  • アメリカ→ASCAP, BMI, SESAC
  • イギリス→PRS
  • オーストラリア、ニュージーランド→APRA
  • カナダ→SOCAN
  • ドイツ→GEMA

など。

 これらはそれぞれ独立した組織ですが、互いに密接に連携しており楽曲が海外で使用された場合にもしっかり徴収して権利者の元に分配してくれる仕組みになっています。

 例えばJASRACのデータベースに登録された楽曲がアメリカで使用された場合でも、ASCAP,BMIを通して使用料を徴収し、権利者に分配してくれます。(分配はJASRACを通して支払われます。)

どの著作権管理団体に加入したら良いのか?

 このブログの読者の大半は日本在住だと思うので、第一候補はJASRACになると思います。日本で音楽活動をして、楽曲が国内で多く使用される場合は、JASRACに加入するのが自然です。

 アメリカ在住の人はASCAPもしくはBMIが選択肢です。アメリカ以外の外国にお住まいの方は、その国のP.R.O, JASRAC もしくは BMI or ASCAPの中で滞在の形式や期間によって合理的に判断する事になります。

Production Musicに重点を置く場合

自国のP.R.Oと契約するのが一般的ですが、このブログのコンセプトでもある

”海外のProduction Music Libraryと契約する”

場合には少し問題が出てきます。

 それはプレイスメント(楽曲使用)の多くが契約したLibraryの国内で発生する事です。Production Music Libraryが一番多くあるのがアメリカで。このブログでも必然的にアメリカのマーケットをメインターゲットと想定しています。

 多くのLibraryは各国に提携やSub-Publisherを持っていたり、インターネット上のカタログを通してプレイスメントを得る事ができるため、アメリカ以外の国でも楽曲が使用されますが、やはり量的にはアメリカ国内のプレイスメントが一番多くなるでしょう。

 もしあなたがJASRACと契約している場合、Production Musicで得られるプレイスメントは全て海外で発生する“International Placement”という扱いになります。

International Placementのデメリット

分配の遅れ

 前述の様に、海外でのプレイスメントであっても該当国の著作権管理団体とJASRACが連携してロイヤリティを徴収、分配してくれます。

 しかし、国内と比較すると楽曲使用から使用料の受け取りまでに数ヶ月から最大2年ほどの遅れが発生します。どの程度遅れるかは、徴収するP.R.Oと分配するP.R.Oの組み合わせによって決まるので明確な基準はありません。

Production Musicビジネスでは

Libraryと契約→カタログ掲載→P.R.O.データベース登録→4半期ごとの支払い

という流れになるので楽曲を作ってから収益を得るまでにそもそも、とても時間がかかります。そこからさらに最大2年待つ事になります。

 契約曲が少なく収益が安定しない間は、結構な経済的な負担になるでしょう。また、日々たくさんの楽曲を制作しつつ、全く収益を得られない期間が長く続くと、成果が挙がっていないのでは?と疑心暗鬼になり焦燥感を感じて精神的にもかなりキツイことでしょう。

楽曲利用情報の不足

楽曲使用料がP.R.Oから支払われる時、楽曲使用報告書を必ず一緒に受け取ります。

通常の国内プレイスメントの場合、

  • 放送局
  • 番組名
  • エピソード名
  • 時間帯
  • 重要度(バックグラウンドかフォアグラウンドか)
  • 種別(Broadcast, internet, promo,他など)
  • 長さ
  • 日時
  • 使用料の総額

といった情報が詳細に記載されますが、

International Placementの場合、

  • 国名
  • 放送局
  • 番組名
  • 楽曲使用料の総額

くらいしか記載されません。

ときには使用された楽曲名とロイヤリティの総額しか知らされない事もあります。

 記載される内容は国やP.R.Oの組み合わせによって違うので一概には言えませんが、やはり国内プレイスメントに比べてはるかに限定的な情報しか得られません。

 Production Musicではどんな楽曲を制作して、どのLibraryと契約するかは、作曲家自身の判断に委ねられているため、業界のトレンド、契約Libraryのプレイスメント成績、自分の楽曲のプレイスメント状況などは可能な限り詳細に分析したいところです。アバウトな楽曲使用報告書しか受け取れないのは、長期的には結構な痛手になるかもしれません。

徴収、分配漏れの可能性?プロセスの不透明化

 私の経験の範囲内では、海外でプレイスメントされたにも関わらず、明らかに徴収、分配漏れしていると確認できた事はありません。

 そもそも国内プレイスメントでも利用報告書を見て、はじめてプレイスメントがあった事を知るケースがほとんどですから、確認をする術が無いのですが。。

 ただ、人間がやる事ですから、情報の経由地が多くなれば伝達のミスが発生する可能性は高まります。そして国や言語をを跨いで手続きが進められますので、途中経過が不明瞭になる事は十分に考えられます。

 基本的にはP.R.Oの仕事を信頼するほかありませんが、不審な点があればログを残しておくと良いかもしれません。

Tunesat

 ちなみに、楽曲の利用状況を監視するTunesatというウェブサービスがあり、私も使用しています。

https://tunesat.com

 これはフィンガープリントテクノロジーと呼ばれる技術を用いて、テレビの放送状況を24時間監視して、サービスに登録してある楽曲を音声解析してプレイスメントを検知、報告してくれるサービスです。利用するためには楽曲のオーディオデータをアップロードして曲名などのメタデータを入力します。

 テレビ放送を24時間モニターしてアップロードされた楽曲と一致する物があると自動で検知して、放送局、番組、エピソード名、使用された日時、長さなどの詳細と共にレポートしてくれます。

私の楽曲のある時の報告事例

 P.R.Oの利用報告書のデータと照らし合わせても極めて高い精度で検知してくれていると思います。

 ただ、これにも問題があって、多くのP.R.OはTunesatのレポートを以て、徴収漏れを指摘しても受け付けてくれません。また、私が利用しているのは無料版でアップロードは50トラックまで、検知の回数は月50回までに制限されています。現在、私が契約している楽曲は1000曲を超え、月のプレイスメント数も50回よりもずっと多いので全くカバー出来ていません。

 アメリカとEU全土で全曲をトラッキングしようとすると月933ドルもかかってしまいます。仮に徴収漏れがあっても、P.R.Oに調査を依頼できないデータに毎月この金額は払えません。

 私はたまにレポートが入ると、モチベーションアップに繋がるという理由だけで使用しています。この様に使う分には楽しいサービスだと思いますが、個人の作曲家が権利保護のために使える感じでは無いというのが私の印象です。

アメリカの著作権管理団体に加入する?

 Production Musicに取り組むと決めた場合に、JASRACに加入するデメリットを解説してきました。次の選択肢はアメリカの著作権管理団体に加入する事です。

ASCAP, BMI, SESAC

 アメリカにはASCAP, BMI,SESACという3つの著作権管理団体が存在します。SESACは少し特殊で、招待制になっており、入会には既に一定以上の実績と招待が必要な様です。この記事ではASCAPとBMIに絞って説明します。

 この2つは細かいポリシーに於いて色々と違いはありますが、基本的には P.R.OとしてJASRACと同じ様な役割を果たしています。

 BMIの方がブロードキャストの分配が大きいと言う人もいますが、同じ条件で厳密に両方を比べる事は難しいので真実は分かりません。ウェブサイトなどで情報を確認しご検討ください。

 どちらを選ぶにしても日本人にとっては海外P.R.Oになりますが、Production Music的には国内プレイスメントとして扱われるものが多くなります。そのメリットは前述の通りです。

デメリット

 Production Musicビジネスをやるうえでは、ASCAPかBMIで良い気もしますがデメリットもあります。

日本の音楽出版社との取引

 あなたがアメリカのProduction Music Libraryのみと契約してやっていくつもりであれば問題はありませんが、もし日本の音楽出版社とも取引をしたいと思った場合、海外P.R.Oへの加入が足枷になる場合も考えられます。

 まず一つは上述の通り、日本国内の楽曲使用がInternational Placementとなり、ロイヤリティの受け取りに時間がかかります。

もう一つは音楽出版社との関係です。

 著作権に関する法律は、国ごとに違い、作曲家と音楽出版社の間の商習慣も独自のルールや暗黙の了解が沢山存在します。

 日本の音楽出版社の中には、国内作家と外国作家を区別して契約するところが少なからずある様です。外国作家の扱い方は各社違いますが、一例としていうと、楽曲コンペの対象から除外されるケースがあるようです。

 これは私個人の経験ですが、以前、日本の音楽出版社との契約が決まりかけていたものの、私がBMIに加入している事を知った後、連絡が途絶えて話が流れてしまった事があります。直接理由を聞いた訳ではありませんので、私が”外国作家”だった事が原因だとは断定できませんが、タイミング的にはそう言う事なのかなと解釈しています。

 日本の音楽業界においての外国作家の明確な定義は分かりませんが、海外の著作権管理団体に加入していたり海外在住だという要因が挙げられると思います。

 そもそもですが、たとえ海外の著作権管理団体に加入していてもJASRACと連携の取れている国であれば、著作権料の徴収、分配は行えるはずなので何も問題は無い様に思えますが、なぜ国内作家、外国作家を区別する必要があるのでしょうか?

超ざっくり言ってしまうと

  1. 各方面の調整の習慣が違って面倒
  2. 海外作家はより強く権利を主張する傾向があるから

という事なんではないかと思います。

1.は普通にありそうな話ですね。

日本語以外でのやり取りが必要になる可能性が高いし、やはり普段の自分たちと違うルールで動いている人との契約は面倒だし、トラブルになると厄介だから最初から弾いてしまう。

2.私自身が国内で音楽活動をあまりしていないので比較が難しいですが、日本の作曲家に比べて、アメリカには作家事務所の様なエージェントを通して契約をする習慣があまり無い為、作曲家個人の権利に対する意識とルール等への理解度が高い印象があります。また、ロイヤリティがP.R.Oから作曲家に直接支払われるのが普通ですから金額とその内訳にもセンシティブになります。

 日本では、それなりの実績のある作曲家でも権利関係は作家事務所に任せきりで、著作権使用料も音楽出版社や事務所を通して支払われるので、権利に対する意識が希薄な方も多い様に思います。あくまで一般論、私の印象ですが。。

 細かい商習慣や権利の取り扱いの違いなどの考察はより専門的なブログなどに譲って割愛させて頂きますが、端的に言ってしまうと、外国人作家との契約は日本の音楽出版社にとって不利益になる、もしくはその様に考えられているという事なのだと思います。

 私の様に音楽活動のほとんどを海外Production Musicに置き、国内は著作権の発生しない買取り契約もしくはRoyalty Free契約のみで行う場合には問題はありませんが、もしあなたが既に国内の音楽出版社との契約を得ているもしくは得ていきたいと考えている場合は、”外国人作家扱い”になるかもしれないデメリットについて考えた方が良いでしょう。

著作権管理団体の移籍

 ここまで海外P.R.Oを選ぶことのメリットデメリットについて説明してきましたが、人によって事情が違ったり、P.R.Oごとにも細かな違いがあり、なかなかどちらがオススメと断定的に言うのが難しいです。

 とりあえずどちらかに加入して不都合があれば移籍すれば良いのでは?と考える人もいるかもしれません。仕組みとしては可能ですが私としては

オススメできません!

 大前提として一人の人間が複数のP.R.Oに同時に加入する事は出来ません。もしなんらかの理由で著作権管理団体を移りたい場合、現在加入しているP.R.Oをやめてから別のP.R.Oに移る事になります。その際、元のP.R.Oから”確実に辞めた”という証明書類を発行してもらい、それを持って新たなP.R.Oにアプライする事になります。

ここで問題になるのが、元のP.R.Oに既に登録してある楽曲達です。

 多くのP.O.Rでは移籍の際、登録済みの楽曲の信託をどうするかを選ぶ事になる様です。

 つまり、その楽曲の使用料の徴収、分配を引き続き元のP.R.Oに任せるか、一旦、全て削除して新たなP.R.Oに登録し直すかという事です。

 システム上はどちらでも可能なのですが、データの移行、削除のプロセスでトラブルが発生するケースがある様です。

 仮にデータを元のP.R.Oに残した場合でも、なんらかのトラブルが発生した時に、既に会員ではないので十分なサポートを受けられないケースもあります。そして新たなP.R.Oに相談しても自分たちが取り扱っていない楽曲に関しては何も出来ないと言われるでしょう。

 逆にデータの移行をした場合ですが、P.R.Oデータベースに登録された楽曲ははそのP.R.Oだけでなく、海外での楽曲使用を監視するための国際データベースにも登録されます。

 元のP.R.Oのデータベース削除自体はすぐにできますが、国際データベースの削除はとても時間がかかる様です。これに関する問い合わせをP.R.Oにしても基本的には何もしれくれません。

 加えて上のケースと同じく既にメンバーでは無いのでP.R.Oも塩対応になる事でしょう。

 さらに、ここに楽曲の著作権譲渡契約をしているLibraryが絡んできます。Library側としてはパブリッシャーとして自分たちが加入しているP.R.Oのデータベースに曲が登録されていれば楽曲使用料を受け取る事ができるのでなんの問題もありませんが、作曲家側はLibraryがクライアントに提供するIPI/CAEが間違っていれば著作権使用料を受け取る事が出来ません、なので変更があった場合は速やかに申し出る必要があります。

 ところがLibrary側も業務で忙しく、常に大量の楽曲のメタデータと向き合っているため、迅速に対応してくれるとは限りません。

いかがでしょうか?これを読んだだけで

めんどくせぇーー!

と思ったのでは無いでしょうか?

そうなんです。。。

P.R.Oの移籍は、システム上、全然可能でトラブル無くすんなり行く事もありますが、一旦、トラブルになると誰に相談したらよいか分からず3者の間を右往左往する事になります。(察しの良い方はお気づきかもしれませんが、実体験に基づきます。思い出すだけで頭痛がしてくるのでこれ以上は書きません。。)

 もしかしたら既にJASRACに加入している方もいるかと思いますが、Production Music参入を期に、ASCAP、BMIへの移籍というのは、あまりオススメできません。

最後に

 海外P.R.O加入のメリットデメリットについて解説してきましたが、各自の状況、P.R.Oや国ごとの事情など様々なため、なかなか横断的かつ断定的な事が言えません。

 現在、どこのP.R.Oにも加入していない方はこの記事の内容とご自分の状況と今後の展望を考慮してご検討ください。