Production Music Libraryの契約書を解説

Production Music Libraryの契約書を解説

 多くの方に、Production Musicビジネススタートアップガイドを購入して読んで頂いています。ありがとうございます。

 この中で30day チャレンジと銘打って30日でLibraryとの契約を勝ち取るプランを提案しています。

 Production Music Libraryの審査はRoyalty Free Musicストックサイトに比べて、やや厳しく狭き門である事は否めません。

 しかし圧倒的な才能が必要という訳でも無く、Libraryの需要をリサーチした上で、自分の得意なジャンルを制作してブロードキャストクオリティな提出していけば、契約のオファーを勝ち取れるはずです。

 この記事では、見事Libraryとの契約に漕ぎ着けた作曲家がまず最初にぶち当たるであろう壁、英語の契約書について解説して行きます。

Libraryと契約する目的は?

 Libraryと作曲家の契約の目的は、

作曲家:楽曲をLibraryに預けて自分ではアプローチが困難なクライアントへの売り込みと楽曲の管理を委託する事。

Library:作曲家の楽曲を自分たちの商品として自由に扱える様にする事。

 曲が受け入れられると、作曲家とLibraryの間で音楽出版および、著作権譲渡契約が交わされ、楽曲の権利の大部分をLibraryに移譲する事になります。

 権利を譲ってしまう事に抵抗感を感じるかも知れませんが、世の中の音楽出版契約の多くがこの形なので受け入れるしかありません。

 とは云うものの、フェアな内容になっている事を確かめる必要があります。初めて契約を交わす人には、フェアな契約とはどんなものなのか判断するのは難しいので、この記事で解説していきたいと思います。

Libraryとの契約に関しては、こちらの記事も参考にしてください。

 ちなみに諸々の権利譲渡を済ませ、クライアントが著作権的に安心して使える曲にする事を”Music Clearance”

 そうして処理された曲の事を “Pre-Cleared Music”と呼びます。Production Musicとしてライセンスされる曲は全てPre-Cleared Musicであることが前提です。

それでは内容について詳しく見ていきましょう。

契約書のフォーマット

 この記事を執筆する上で、私が現在取引している5社のLibraryの契約書を全て読み返し、分析しました。契約内容はそれぞれ微妙に違いがあります。全てのLibraryに共通して書かれている項目と、ある特定のLibraryの契約書にのみ書いてある内容がありました。その違いにより契約の有利不利が出ている項目もあります。

 ただし、それぞれのLibraryが獲得してくれるプレイスメントの質も量も大きく異なりますので書面上、不利に見える契約でも結果的により多くの利益を生んでくれている契約もある事を付け加えておきます。

 そして全体として、ほとんどのLibraryに共通したフォーマットの様なものを見出すことが出来たので、まずはそれをまとめていきます。

 契約書というのはその性質上、発行者(この場合はLibrary)の利益を守る為に作成されています。字面をみると、作曲家側に多くの制約や義務を課して、Library側の権利を主張する内容になっています。

 これに拒否反応を示していては、いつまで経っても契約は結べないので、まずは冷静に内容を把握しましょう。ちゃんとしたLibraryとの契約なら作曲家側にも利益が出る仕組みになっているはずです。

 尚、契約書には”秘密保持契約”があり、契約書の本文や対訳契約内容の詳細Libraryの名前などは一切、明かせませんのでご了承下さい。

 また、このブログの読者で、Libraryとの契約をする事ができた方も、メディアの取材、本、そしてSNSを含め、Libraryとの契約内容内部情報取引で得た報酬等を公開する行為は契約違反にあたります。最悪、訴訟のリスクもあるので、情報発信する際は注意が必要です。

 多くのLibraryが訴訟大国アメリカの会社であり、私自身とても慎重に内容を吟味しながら記事を書いています。

契約の対象

 アーティストやタレントの契約というと、どのような事をイメージするでしょうか?

 例えば、日本の国民的アイドルと事務所(運営会社?)の、恋愛禁止のルールが有名ですよね。これが契約書に明記してあるかどうかは分かりませんが、実際、ルールを破ってバッシングを受けたり、グループを去らなければいけないケースもあるようです。

 年頃の少女に対して恋愛を禁止するというのは、人権的にも如何なものか、という想いもありますが、事務所にとっては彼女たちの振る舞いこそが商品価値なので、そのイメージを保護したいという考えも理解できます。

 ここまで厳しくなくてもアーティストやタレントというのはその人物の存在自体に商品価値を見出した上で、レコード会社なり、事務所なりがその人物に投資をする構造です。故に、契約によってその人の行動にも一定の制約が発生してしまうのは仕方が方ない事だと思います。

 一方、作曲家の商品はその人が生み出す楽曲です。作曲家と音楽出版社との一般的な契約では楽曲の取り扱い、権利の所在に関しては契約書で明確に定義されますが、作曲家本人の振る舞いに言及する事はありません。もちろん作品のイメージを著しく毀損する反社会的行為は認められませんが、それ以外では、一切の制約を受けません。

 Production Music Libraryとの契約も一緒で、契約の対象となるのは楽曲の権利です。Exclusive契約(独占契約)というと、そのLibrary以外とは仕事が出来ないと思いがちですが、これはLibraryがその楽曲を独占的に扱う権利を認める契約ですので、作曲家が複数のLibraryと同時に契約する事は全く問題ありません。

 もちろん既にExclusive契約した楽曲を他のLibraryとさらに契約するのはNGです。

 ここから実際の契約書を元にまとめた要点を解説していきます。

 尚、ここから下の背景が灰色の部分が、実際の契約書を意訳した部分になります。

項目①表明

契約者

個人事業主としての作曲家、パブリッシャーとしてのLibrary

 作曲家は具体的にどの様なサービスを提供するか、パブリッシャーの役割とはなにか、言葉の定義から極めて具体的に書かれています。一見するとわざわざか書かなくてもわかる様な事もあえて事細かに記載されています。これは訴訟時に言葉の解釈による齟齬を避けるためだと思われます。

作曲家の役割

作曲家は個人事業主としてLibraryから委託されて作曲業務を行います。作曲とは楽曲のアイデアだけでなくマスターレコーディングやアレンジも含む

曲の受け入れ

 カタログに受け入れる楽曲の選択の自由、カタログに掲載する権利、カタログから自由に削除する権利をLibraryが保持する

報酬

 契約書に定める作曲家としてのサービスを滞りなく提供する事を条件に正当な対価を受け取れる

項目②本文

ここからいよいよ、具体的な条件が明示されます。

規約と条件

 作曲家は、Libraryの求めに応じて、曲を適切な形に作り替える事を受け入れる。また、パブリッシャーが第三者との取引に楽曲を使用する事を認める。

 Production Musicでは、Libraryの様々なニーズに合わせて用途にフィットする形に曲を作り変えて提供する事を求められます。そしてLibraryが自社の商品として楽曲をプロモートする事を許可します。

Libraryの権利

 作曲家はパブリッシャーが楽曲の著作権者の構成メンバーである事をテリトリーの制限なく認める。

 これがLibraryとの契約書のメインパートです。本来は作曲家が100%保持している楽曲の権利をLibraryも権利者の一人であると認めるという事です。そしてここからLibraryが行使できる権限を定義していきます。

a)作曲家はP.R.Oから著作権使用料のいわゆるライターシェア、Libraryはパブリッシャーシェアを受け取る権利を有する。またLibraryはDirect Licenseをクライアントと締結する権利を有する。

 PROから支払われる楽曲使用料を50%ずつ分け合うのがスタンダードな契約です。それぞれライターシェア、パブリッシャーシェアと呼ばれます。正当な理由が無い限り、ライターシェアが50%以下の契約にサインしない方が良いと思います。Direct Licenseに関しては後述します。

b)パブリッシャーは楽曲のタイトルを改変する権利を有する

 メタデータ管理やプロモーションの為にLibraryが扱いやすい様に、楽曲のタイトルを変える権利をLibraryに認めます。カタログやPROのデータベースに登録する楽曲名や情報は、Library側が決定する権利を有します。

c)Libraryは楽曲を独占的にライセンスする権利を有する

 これはすなわちExclusive契約だという事です。Exclusive契約を交わした楽曲は、他のLibraryと契約することはできません。Libraryはこの楽曲は自社のカタログにしか無いと主張してカタログの価値を持たせます。

d)パブリッシャーは機器を限定せずに楽曲が収録された音源を使用する権利を独占的に有する(マスターライセンス)

原盤権、すなわち楽曲が収録された音源を使用する権利です。

e)楽譜を出版する権利を、独占的に有する

 楽譜をはじめ、楽曲に関連する情報を本、ウェブサイトなど出版物に掲載する権利です。

f)その他の、現存するかどうかに関わらず、楽曲に関する全ての権利を、独占的に有する

 なかなか強烈な一文ですが、楽曲に関する全てのコントロールはLibraryが持つという事です。他の記事にも書きましたが、Exclusive契約をした場合、その曲は自分の曲だと思わないで扱った方が安全です。そのかわり楽曲使用料をしっかり受け取とる権利だけは手放してはいけません。

 Libraryの権利に関する記述は大体この様な感じです。細部は契約書ごとに異なりますので、よく確認しましょう。

 文書の中に、Exclusivelyという単語が頻繁に出てきます。これは独占的にという意味でExclusiveの契約書には、必ず記載されます。

 また、権利の範囲を指定する言葉として、Perpetual, Universalという単語も多く使われます。それぞれ永久、全宇宙という意味です。つまり期限、地域の限定無しという事です。

 地域の限定がWorldではなくUniversalなのは人類が宇宙に出ていく時代、地球外での楽曲使用について考慮しているのかもしれないと思うとなかなか面白いです。

特に注目してほしいのが、c), d)の項目です。
c)はSync License と呼ばれます。楽曲を映像等と同期して使用する権利です。

d)はMaster License と呼ばれていて楽曲が収録された音源を使用する権利です。

 Production Musicのプレイスメントでは、Sync Licenseと同時に必ずMaster Licenseの許諾が必要になります。

 これは考えてみれば当然で、音源として収録されていない楽曲をTV等で使用する事はできませんよね?

 つまり、ある楽曲を自分のプロジェクトで使いたければ、楽曲使用者はSync License とMaster Licenseの両方の所有者に許諾を得る必要があります。

 これらの権利は本来的には曲を作った人が全て保有していますが、通常のレコード業界の仕組みでは、楽曲制作や音楽出版の過程でプロモーションや制作資金の提供の対価として、Sync License を音楽出版社に、Master Licenseを レコード会社に譲渡するのが一般的です。(もしくはその両者が分割して持ったり様々です。)

 この仕組みではTVプロダクション等、楽曲使用者は両方の権利者に別々に交渉する必要があります。そして関連する業界の慣習も色々とややこしく非常に手間のかかるプロセスです。

 そこで登場するのが Production Music Libraryです。Libraryと作曲家の契約では、作曲家がSync LicenseとMaster License を含む全権利を保有している事を前提に契約が交わされます。

 そしてその両方をLibraryに譲渡することで、LibraryはSync LicenseとMaster License を一元的に扱う事ができるようになります。

 クライアントはLibrayとのみ交渉すれば楽曲の権利を全てクリアにできる仕組みです。

 この仕組みを採用しているLibraryの事をOne Stop Shop Libraryと呼び、その簡便性のためにテレビ番組制作業界で特に重宝されています。

Schedule A

 契約書の効力が適用される楽曲の一覧の事です。始めて契約書にサインする際に一緒に作成されます。Libraryの方針にも寄りますが、2回目以降にLibraryに楽曲を提出して受け入れられた時は、Schedule Aに楽曲を追加するだけで契約が済んだとみなされます。以後の契約がとても簡単になりLibraryとの継続的な取引が可能になります。

 このブログで度々、書いていますが良いLibraryと継続的に契約を重ねる事がProduction Musicビジネス成功の鍵です。良さそうなLibraryと1回目の契約を済ませる事がこのチャンスを引き寄せる大事な一歩となるのです。

項目③作曲家の制約、保証

 契約に於いて、作曲家側がLibraryに約束する内容です。冒頭にも書きましたが、契約書とは発行者の利益を守る目的で作成されていますので、Library側の利益の為に、作曲家側に多くの制約を課されます。

 もちろん納得の行かない項目には同意する必要はありませんが、Libraryとの契約は作曲家側にも利益があるので、内容を良く吟味した上でサインしましょう。

(a)作曲家はこの契約書でLibraryに付与されるべき全ての権利を単独で所有している事を保証する。また今後、この権利をLibraryが独占的、永久的に所有する事を認めると共に、Libraryの活動に意見したり、健康保険やその他、従業員としての権利を求めないことに同意する。

 作曲家が提出する楽曲が完全オリジナル作品であり、誰の権利も侵害していない事を保証し、この権利をLibraryに移譲する事を認める。また、過去に別の出版社との契約を交わしていたり、楽曲のタイトルを改変されたりした事が無い権利上、完全な曲である事を保証します。

 そしてLibraryの活動方針に口出しをせず、個人事業主として契約し健康保険など、従業員としての権利を主張しない。といった内容です。

補償

 作曲家は、Library、クライアントまたはその関連会社に如何なる不利益をも与えない事を宣言します。また、不正な行為によって上記の関係者に損害をもたらした場合は作曲家個人として裁判を受け、Libraryにその補償等を求めない事を認めます。

 作曲家の行動でLibraryとクライアント、その関連会社に損害を与えない事を約束し、もし与えた場合は、個人として補償しLibraryを巻き込まない事を宣言します。

作曲家の名前や写真、情報の使用

作曲家は、Libraryが作曲家の氏名および写真、ほか必要な情報を公開する事を認めます。

 これはLibraryのカタログに作曲家の氏名などの情報を掲載する事に対する許可です。また、クライアント他、関係する会社の求めに応じて情報を開示する権限です。

秘密保持

 作曲家はこの契約によってもたらされる結果(収益)を一切公表しない事に同意します。また、契約内容も一切、公表し無い事に同意します。

 作曲家は契約内容の詳細や取引によって発生した収益の詳細などを公表私することが出来ません。 

 この一文があるため、私はブログに於いても取引のあるLibraryの名前や情報を公開出来ない事になっています。この記事に関しても、具体的な契約書の内容や条件、収益額などを掲載したりする事はできません。

その他

 その他、ありとあらゆる活動においてLibraryの不利益にならない様に求める内容が続きます。

以上が、多くのLibraryで使われている契約書の形式になります。

注視するべきポイント

 ここまでは、ほとんどのLibraryの契約書に共通して書かれている、いわば契約書の骨子の部分を説明しました。

 この内容をきちんと理解している事は大事ですが、ここからはより具体的で、Libraryの方針次第で差が生じやすい部分に注目していきたいと思います。特に報酬や権利の範囲など、お金に直結する内容が多いので特に注視すべきポイントです。

  1. そもそもProduction Music Libraryなのか?
  2. Exclusive契約 or Non-Exclusive契約?
  3. Backend Royaltyの分配の割合は?
  4. Consideration Fee?
  5. Sync Fee?
  6. Blanket License、Direct License ?
  7. Reversion Clause?

1.そもそもProduction Music Libraryなのか?

 散々、このテーマで書いてきて何を言っているんだ?と思ったでしょうが、契約しようとしているLibraryは本当にこのブログで扱っているProduction Music Libraryですか?

 Production Music Libraryの役割は作曲家から曲を預かり、権利をクリアにした物をクライアントに売り込み、楽曲をP.R.Oのデータベースに登録して楽曲使用料の分配をPROから受け取れる様にする事です。

 これによく似た仕組みにRoyalty Free Music Libraryがあります。この二つの違いは著作権使用料の徴収方法です。Production Music Libraryは上記の通りですが、楽曲が使用される度に著作権使用料が発生して、P.R.Oから支払われます。

 Royalty Free Music Libraryは、クライアントがライセンスを一定額で購入すると手数料を差し引いた額が作曲家に支払われます。クライアントは使用規約の範囲内で楽曲を繰り返し使用することができます、追加の使用料は発生しません。

 Production Music Libraryは番組が繰り返し放送される事によって、楽曲使用料も繰り返し発生する為、良質なプレイスメントを獲得できれば大きな収入を得ることが可能です。Royalty Free Music Libyraryは楽曲がライセンスされると即、収入を得ることが出来ますが、Production Music Libraryのように繰り返し楽曲使用料を得ることが出来ません。

 Royalty Free Music Libraryでも、一定の利益を得ることが出来ますが、このブログでは、より大きな楽曲使用料が期待できるProdcution Music Libraryに絞って解説をしています。

 厄介なのは、まるでProduction Music Libraryに見えて、実はRoyalty Free 契約を求めるLibraryや、Production Music Libraryとしての契約とRoyalty Free 契約の両方を取り扱うLibraryなど、バラエティーに富んでいる事です。

 ちなみにRoyalty Free Musicであっても楽曲がP.R.O登録曲の場合、テレビ、ラジオなどBroadcast目的で楽曲を使用する場合はCue sheetの提出が必要になります。その為、一部のRoyatly Free MusicサイトではP.R.Oの登録曲の投稿を禁止したり、Broadcast用途のライセンスを別に用意しているところあります。

 まずはじっくり契約書を読んで確認しましょう。注視するポイントは楽曲をP.R.Oに登録する記述があるかどうか。また、P.R.Oから支払われる楽曲使用料の分配率に関する記述が有ること。

こちらの記事も参考にしてください。

2.Exclusive契約 or Non-Exclusive契約?

 契約がExclusiveかNon-Exclusiveかも大事なポイントです。これを勘違いすると契約違反になってしまうし、契約の利点を十分に活かせなくなってしまいます。どちらが良いかについては、他の記事でたびたび私の考えを書いてきたのでここでは割愛します。

 見極めるポイントとして、明確に書いてある場合もありますが、多くは楽曲の権利譲渡の条文にExclusivly(独占的に)という記述がありますのでそこから判断します。

 ほとんどの場合、契約に進む前段階でLibraryのスタッフから説明があるので間違える心配は無いと思います。もし分からなければ契約前に必ず確認しましょう。

3.Backend Royaltyの分配の割合?

 これがProduction Musicの果実の部分です。P.R.Oから支払われる楽曲使用料の作曲家側取り分(ライターシェア)Library側取り分(パブリッシャーシェア)の割合です。

 50:50が業界のスタンダードとなっていて多くのLibraryではこれを採用しています。ただし契約によってこの比率は変更可能ですので、しっかりと確認しましょう。

 なんだかんだと理由を付けて、ライターシェアを削る契約を求めるLibraryには注意が必要です。相当に納得できる利点が無い場合は50%を割り込む契約にはサインしない様にしましょう。

 一方でライターシェアが高ければ良いのかというと、必ずしもそうとは言えません。例えば、80:20の様に異常に条件の良い比率を提示してくるLibraryの場合、二つの懸念があります。

 一つは、膨大な数の作曲家と片っ端から契約して、広く浅く使用料を集めるモデルを採用している懸念です。このやり方では、一人一人の作曲家への還元は極めて小さくなり楽曲のプロモーションも行き届かず、多くの曲がカタログの中で眠った状態になります。

 もう一つは、LibraryがProduction Musicビジネス以外に収益源となる事業を持っており、あまり楽曲のプロモーションに注力していない懸念です。この場合も楽曲がカタログ内で眠った状態になり、やはりほとんど利益を生みません。

 やはり50:50というのが無難なラインに思えます。Production Musicビジネスの基本はLibraryとWin-winの関係を築く事です。お互いに共通の利益に向かって活動できる条件が望ましいと思います。

こちらの記事も参考にしてください。

4.Consideration Fee?

 Consideration Feeとは、楽曲がLibraryに受け入れられた時に、Libraryから作曲家に支払われる契約金の様な物です。相場としては1曲$50から$500ドルくらいです。Consideration Feeを支払うのはExclusive Libraryのみで、しかも最近では支払われない契約も多いです。

 Production Musicにおける作曲家の主収入はP.R.Oから支払われる楽曲使用料なので、Consideration Feeが支払われない契約書にサインする事は全く問題ありません。

 とはいえ、貰えるに越した事はありませんし、P.R.Oからの支払いと違い、契約するとすぐに受け取る事ができるので、カタログが十分に大きくなるまではあると非常に助かります。

 契約書に”Consideration Fee”という言葉が書かれている事は稀です。契約の条件面で楽曲を受け入れ時に支払われるお金に関しての記述があれば、それがConsideration Feeです。

5.Sync Fee?

 Sync Feeとは楽曲がプレイスメントされた時に、クライアントからLibraryに支払われるお金です。年2回ほど集計されLibraryから作曲家に分配されます。分配の比率は、契約書の合意に基づいて決定されます。通常、これも50:50が一般的です。

 Sync Feeの金額はLibraryとクライアントの交渉で決まりますが、金額の幅はゼロ〜1万ドル以上であり、これといった相場はなくプロジェクトにより様々です。

 近年では、Sync Feeを作曲家に支払わないLibraryや、そもそもクライアントに請求しないスタンスのLibraryも出てきています。

 Sync Feeを請求しない事を売りにして、より多くのプレイスメントを獲得してBackend Royaltyで稼ぐというのは、一理ある考え方ですが、必ずしもそう上手くいくケースばかりでは無い様です。

 そういうポリシーのLibraryと契約して、利益が出るケースもありますが、Sync Feeは本来、作曲家に認められた権利の一つなので、できる事ならばちゃんとSync Feeを徴収して支払ってくれるLibraryと契約したい所です。

尚、前述のConsideration FeeとSync FeeはどちらもLibraryから直接支払われるお金ですが、重要度はSync Feeの方が上です。

 Consideration Feeは契約時に一回だけ支払われるお金で、実際に支払っているLibraryも限られます。

 Sync Feeは楽曲がLicense されるたびに支払われるので、長期に渡ってProduction Musicビジネスを取り組む場合の資産的価値が高くなります。また、多くのスタンダードなLibraryはSync Feeを支払う契約をしています。

6.Blanket License?Direct License ?

Blanket LicenseとDirect License はライセンスされた楽曲の使用料をP.R.Oを介さずに行う契約形態です。詳しく解説します。

Blanket License

 Blanket とは、”毛布”の事です。つまり個別のプレイスメントに対して”毛布”を被せて、詳細を見えなくした上で、丸ごと契約する仕組みです。

 具体的にはLibraryが契約している楽曲の一部、および全部を定額で一定期間、クライアントが自由に使う事ができる契約です。

 通常のSync Licenseでは、クライアントは楽曲を使用するたびにCue sheetをP.R.Oに提出し使用料を支払う必要があります。Blanket Licesneは最初に、使用料をLibraryに支払い、契約期間中は全ての楽曲が使い放題になります。

 カタログの全ての曲にアクセス可能になる訳ですから、Blanket License 自体はそれなりに高額になるでしょうが、Cue Sheetの提出の手間を省き、気兼ねなく音楽を使えるので、長期的に大量の音楽を必要とするクライアントにとっては大きなメリットがあります。

 一方、作曲家にとってはどうでしょうか?

 非常に残念な事ですが、多くのLibraryではBlanket Licesne で得られた楽曲使用料を作曲家に還元しない契約を伝統的に交わしてきました。

 公平性の観点から言えば、楽曲が使われているのに、楽曲使用料が一切受け取れないというのはおかしな話ですが、慣習としてその様な契約がとても多いです。

 近年では、インターネットTVの隆盛をうけて業界におけるBlanket LicesneやDirect Licenseの位置付けに変化が起こっており新興のLibraryでは、Blanket Licenseで使用された楽曲のレポートを作成して楽曲の使用量に応じて収益を分配するLibraryも現れています。しかし、全体としてはほんのわずかです。

 Blanket License に関してはそこから得られる収益ではなく、Library全体のプレイスメントに対するBlanket Licenseの割合に注目するべきです。

 Libraryが沢山のプレイスメントを獲得していても、大半がBlanket Licenseだとしたら、作曲家にとっては楽曲を使われるだけでなんのメリットもありません。

 ウェブサイトの情報からその比率を窺い知る事は難しいかもしれませんが、可能なら契約前に、全プレイスメントにおけるBlanket Licenseの比率をスタッフに尋ねてみると良いと思います。

 必ずしも回答を得られるとは限りませんが、答えてもらえない場合は、契約後、そのLibraryのプレイスメントから得られる収益を注視してください。その際、後ほど説明するReversion Clauseによって、楽曲のLisenceをLibraryから引きあげる条件も合わせて確認しておくと良いでしょう。

 ただ、私の経験上、ある程度ちゃんとProduction Music Libraryとしての実績のあるLibraryで、プレイスメントの大半がBlanket Licenseという事は、ほとんど無いので、まずは契約を進めてみて状況を注視するという対応で良いと思います。

Direct License

 これもP.R.Oからの分配を受け取らないライセンス形態です。世間一般で言う、Royalty Freeの考え方とほぼ同じです。ただ通常、ライセンス料はずっと高額に設定されます。

 Direct Licenseでは、Libraryがクライアントと直接、交渉して決まった金額で楽曲をライセンスします。クライアントは楽曲使用をCue SheetでP.R.Oに報告する必要はなく。著作権使用料を支払う必要もありません。

 作曲家とLibraryとしては、ある程度まとまった金額を先に受け取れる利点はありますが、その後のP.R.Oからの分配を受け取る事が出来なくなります。楽曲が使われた番組が繰り返し放送されたり、海外で放送されたりしてもP.R.Oからの分配を受ける事が出来ないので、長期的にみて、通常のSync Licenseの著作権使用料を下回ってしまう事も多いです。

 そういった性質上、Direct License Feeはそれなりに高額に設定される事が多いです。あとは、目先の利益(Direct License Fee)と将来的な利益(Performance Royalty)を天秤にかけて判断します。

 クライアントからLibraryに支払われたDirect License Feeは契約書で定められた比率で作曲家に分配されます。具体的な金額は、通常、Libraryとクライアントの交渉できまりますので、作曲家側としては契約書で楽曲をDirect License する事をLibraryに認めるかどうかを注視することになります。

 他の項目にしてもそうですが、実際にはLibraryから提示される契約書に、様々な条項が既に盛り込まれていて、個別の内容に関して交渉をするのはなかなか難しくはあります。

 ある程度、実績と経験を積み上げていき、Libraryに圧倒的に必要とされる人材になる事が出来れば全ての内容に対して交渉をすることも可能です。

 最初の契約段階では、条件面の交渉は難しいので、次に説明するReversion Clause の項目に注目しましょう。

7.Reversion Clause

 ほとんどの契約書では契約自体の有効期間は”Perpetual”(永久)とされていて、一旦契約したら永久的にLibraryが楽曲のコントロールを持つ様に定められています。

 Reversion Clauseは、例えば楽曲をLibraryに預けてから2、3年など契約で定めた期間を過ぎてもまったくプレイスメントを獲得出来なかった場合に、楽曲の権利を作曲家に戻す規定です。

 Libraryとの契約では作曲家は楽曲の様々な権利をLibraryに譲渡する事を求められますが、Library側は預かった楽曲を適切にプロモーションする義務を負います。一定期間を過ぎても成果を挙げられなかった曲に関してはLibrary側がこの義務を遂行できていないと考えて楽曲の権利を返却するという事です。

 契約書では明確に、Reversion Clauseの項目がある場合もありますし、付帯条件としてサラッと書いてある事もあります。

 また、すべてのLibraryの契約書がReversion Clauseが認めている訳ではありません。その場合はプレイスメントの状況に関わらず永久的にLibraryが楽曲のコントロールを持ちます。

 ここまで書いてきたConsideration Fee, Sync Fee, Blanket License, Direct Licenseに関しては、Libraryごとにポリシーが違います。作曲家にとって都合の良い内容であればラッキーと思い、そうでも無ければ、その後のプレイスメントの状況を注視し、一定期間経過後、Reversion Clauseを行使するという感じで対応します。

 事前に契約するかどうかを良く検討すべきなのがやはり、Backend Royaltyの割合を50:50以下に設定してくるLibraryですね。これは本来、作曲家の持っている権利に踏み込んでくる内容ですから、かなり注意が必要です。

 圧倒的な大手で、明らかな大型のプレイスメントが約束されているとか、明確な理由があって納得できる場合はこの限りではありません。最終的には自分のメリットで判断してください。

まとめ

 以上で、Production Music Libraryとの契約で注目すべきポイントの解説でした。契約書の大まかな成り立ちとフェアな契約のイメージを掴んでもらえたら幸いです。

なお、この記事で扱っている著作権関連の記述はアメリカのルールに基づいて解説されています。Production Music Libraryの大半はアメリカの会社であり、あなたが日本国内在住でも、契約書にはアメリカの法律が適応されます。

 著作権法は、大変複雑で音楽著作権ビジネスに馴染みの無い方には、この記事は難しい内容もあったかもしれません。本当は英語の著作権関連書籍で基礎を学ぶのが一番良いのですが、それも大変だと思うのでまず関連書籍などで日本のルールを学ぶのが良いと思います。

 日本とアメリカの著作権法では、細部において多少の違いはあるのですが、権利の所在、お金の流れなどは非常に似通っているので、音楽著作権ビジネスの全体像を掴む助けになると思います。